「聖域なきジョブ型」を目指す理由
富士通の人事改革は今回が初めてではない。1993年、同社はグローバル競争の激化を見据え、業界に先駆けて「成果主義」を導入した。しかし、これは失敗と評されることになる。富士通 取締役執行役員 SEVP CHRO(最高人事責任者)の平松浩樹さんは、3つの要因を挙げる。
第1に、社内の温度差。経営層や人事部門は生き残りに強い危機感を持っていたものの、それが全社には浸透していなかった。第2に、目標管理制度は徹底したものの昇進は依然として年功序列が残る矛盾。第3に、情報共有の不足。当時のコミュニケーション手段では人事部門の発信が全社に行き届かず、ネガティブな報道が全てかのように捉えられてしまった。
その結果――「富士通が成果主義失敗の代表例とされ、『日本には成果主義が合わない』という論調が広まりました。さらに『人事が人事の理屈で改革すればビジネスに不利益を与える』とも言われ、思い切った改革に踏み切りづらい空気が、20年近く続きました」
この20年は、皮肉にも「失われた30年」と重なる。この間、多くの日本企業は、既存の人事制度の枠組みを大きく変えることなく、小さな修正を繰り返した。2015年頃からは、GAFAなどビッグテックの台頭で、外資系企業への人材流出が加速した。1993年にすでに予測されていた未来。平松さんはずっと、なぜ成果主義が失敗に終わったのか考え続けてきた。
「富士通の営業やエンジニアが外資系企業に転職する理由は、報酬だけではありませんでした。年齢に関係なく大きな仕事に挑戦し、成長できる環境に魅力を感じていたのです」
平松さんらは、競合にあたる外資系企業の人事制度を徹底研究し、2つの重要なヒントを得た。
まず、ライバルは「事業計画ありき」で動き、柔軟に必要な人材を調達する。日本企業の「今いる人ありき」とは正反対。つまり「適材適所」ではなく「適所適材」だ。
そして、「ジョブ中心の人材マネジメントこそグローバルスタンダード」という事実。ジョブ型を目指す日本企業の多くが、痛みや反発を避けようと部分導入を選ぶ中、富士通はグローバル標準への完全準拠を決めた。