
経営再建中の自動車部品大手マレリホールディングスを傘下に持つプライベートエクイティファンド、KKRジャパンの平野博文社長がダイヤモンド編集部の取材に応じ、マレリの経営状況について「非常に苦しい」などと胸の内を明かした。また富士ソフトの買収を巡り、競合の米ベインキャピタルが予告TOB(株式公開買い付け)を繰り返したことについて「極めていかがわしいやり方」と問題視し、ルール改正が必要だと主張した。特集『プライベートエクイティ 金融最強エリートの正体』の#3で、平野氏のインタビューをお届けする。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
西友株の売却で3000億円超の利益
わずか4年でバリューアップの秘策とは?
──ディスカウント店大手のトライアルホールディングスが3月、西友を3800億円で買収しました。KKRが2021年に取得した西友株式を今回売却したわけですが、ダイヤモンド編集部の試算ではその売却益は3000億円以上に上ります。わずか4年でどのようにして西友の企業価値を向上させたのですか。
一つの手法だけでできたわけではありません。幾つかの手法が奏功したのだと思います。西友は元々、やや時代とマッチしていないGMS(総合スーパー)業態でしたが、生鮮食品を中心とした食のスーパーマーケットに転換していくことが、その中でも一番大きなテーマでした。
西友株式を長年持っていた米ウォルマートは小売りに非常に強く、世界のリーダー的存在です。でも小売りには、それぞれのマーケットの独自性がある。必ずしも「エブリデー・ロー・プライス」が良いわけではない。
例えば駅に近い店舗では、朝昼夕に来るお客さんはさまざまです。現場に権限を委譲し、お客さんのニーズに合わせた商品をそろえた方がいい。特にわれわれが投資させてもらった直後はコロナ禍で外食もできなかったわけですから、ちょっとぜいたくをしてワンランク上の肉を自宅で食べたいお客さんのニーズもありました。売り上げが必ずしも大きく伸びたわけではありませんが、付加価値を持たせることでマージンが上がりました。
本社では大勢のコンサルタントがデータを分析していました。確かに小売りはデータが非常に必要ですが、何をどうするのかという目的を持ってデータを見ないと意味がない。コンサルタントの契約を大幅に見直し、消費者の評判が高い「みなさまのお墨付き」というプライベートブランドの品数を増やしました。
財務面では遊休不動産の売却も進めました。西友で販売していたホームウエアは、賃料が安いので粗利が良いように見える。しかし、ユニクロがテナントに入って同じようなホームウエアを販売したときに、どれだけ集客力が上がるかを含めて見れば違って見える。
そうしたさまざまな手法を、西友の大久保恒夫社長や野村優CFO(最高財務責任者)とやってこられたのが大きいと思います。
KKRは1976年、社名となっているコールバーグ、クラビス、ロバーツの3人の投資銀行マンが米国で創業した。日本には2006年に進出し、旧日立物流や富士ソフト、そして旧カルソニックカンセイなど数々の企業買収を手掛けている。だがその全てが、西友のように成功を収めているわけではない。それでもKKRがグローバルで高いリターンを出し続け、半世紀にわたって存続しているのは、ある理由があるからだと平野氏は言う。投資中案件の内情を含めて次ページで明らかにする。