
プライベートエクイティ(PE)ファンドの仕事は、企業を買って終わりではない。むしろ、ミッド・スモールキャップファンドにとっての本当の勝負は、その後の企業変革にある。特集『プライベートエクイティ 金融最強エリートの正体』の#14、匿名座談会・中編では、現役PEファンド社員たちが中小企業の現場で信頼を築く過程と、そこで直面する失敗や試行錯誤の日々を赤裸々に語る。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
株主の立場で上から目線は論外
利益成長したい従業員は少ない
――人間力が必須スキルとのお話がありましたが、プライベートエクイティ(PE)ファンドは株主の立場ですよね。上から目線で指示してはいけないのですか。
毛利 確かに私たちは株主という立場ですが、それを盾にして上から物を言っても、うまくいくものではありません。むしろ、相手とどれだけ真摯に向き合えるかが肝要です。
オーナー企業との最初の接点であるソーシング(案件発掘)の段階から、関係構築は始まっています。この人たちになら会社を託してもいいと思ってもらえなければ、交渉すら始まりません。
伊達 ラージキャップファンドの投資先は大企業やその一部門で、明確な指揮命令系統があります。でも、ミッド・スモールファンドが向き合っているのは、多くがオーナー企業。基本的にはオーナー本人がダイレクトに各従業員に指示することも多々ありますので、組織の仕組みが全く違います。
石田 中小企業の従業員は、たとえ所有者がファンドに変わっても、意識が旧オーナーに向いたままというケースが少なくありません。もちろん個人差はありますが、旧オーナーを意識し続け、どこか遠慮しながら働いている従業員が多いのが実情です。
だからこそ、譲渡していただいた旧オーナー本人が、われわれ新オーナーであるファンドと同じ方向を向いているという姿勢を、はっきりと社内に示す必要があります。そこが曖昧なままだと、オーナーが変わった後も現場はなかなか動いてくれません。
徳川 その話にもつながりますが、中小企業の従業員の多くは、会社を成長させたいとか、利益を出したいといったモチベーションで働いているわけではありませんよね。昨日と同じ日常が明日も続くことを望んでいる人が大半です。
そんな中でいきなり「利益を改善しましょう」と言っても、ほとんどの人にとっては余計なお世話でしかない。株主という立場を振りかざしても、現場では受け入れられません。大切なのは、ファンド側の事情を丁寧に説明した上で、一緒に頑張れば皆さんの暮らしも良くなると納得してもらうことです。
――投資先企業との信頼関係は、具体的にどのように築いていくのでしょうか。
PEファンドが中小企業の現場で信頼を得るには、まずはひたすら教えを請い、最初から何かを変えようとしない覚悟が必要だという。次ページでは現役PEファンド社員たちが、幹部や現場従業員との関係性、人材登用の難しさなど、外からは見えにくい信頼構築の実態や、企業変革するための戦術を語る。