プライベートエクイティ 金融最強エリートの正体#10Photo:REUTERS/AFLO

プライベートエクイティ(PE)ファンドのKKRが2017年から傘下に置くマレリホールディングス。自動車の販売不振などで深刻な経営危機に陥っているが、このほど債権者である国際金融コンソーシアムが提案した最新の再建案が明らかになった。隆盛を誇るPEファンド業界において、最大の失敗案件とされるマレリ。特集『プライベートエクイティ 金融最強エリートの正体』の#10で、その転落の経緯と共に再建案の中身を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

マレリ債権を持つファンド連合
24年11月に続く「2回目の提案」を実施

 日産自動車とステランティスの販売不振などから、深刻な経営危機に陥っている自動車部品大手のマレリホールディングス。約6500億円もの借入金を抱え、その債務の一部である180億円の返済が2024年12月末から始まるはずだったが、みずほ銀行などの国内金融機関の支払い猶予措置によって、なんとか破綻を免れている状態だ。

 経営の安定化に必要な当座の資金は約1000億円。その資金を誰が拠出し、どのように経営再建策を描くのか。24年11月ごろに顕在化したこの問題は一向に解決策を見出せず、再建案がまとまらないまま6カ月もの時間が浪費されている。

 マレリはこの8年間、日産やプライベートエクイティ(PE)ファンド、国内外の金融機関の思惑に翻弄され続けてきた。

 下の年表を見てほしい。マレリの前身は日産子会社のカルソニックカンセイだ。17年3月にPEファンドのKKRが買収し、経営に参画。KKR主導で19年にはイタリアのマニエッティ・マレリを買収・統合し、現在の形になった。

 マレリの経営執行役会長には、KKR米州プライベートエクイティ投資事業のパートナーであるディネーシュ・パリワル氏、取締役にはKKRジャパン社長の平野博文氏、同マネージング・ディレクターの飯島久雄氏らが名を連ねている。

 本特集では、日本のPE市場が今後10年間で黄金期に入るという、隆盛ぶりをレポートしてきた。だが、ことマレリに関しては、ここ数年の最大の失敗案件だといえる。

 実際KKRジャパンの平野社長は本特集で、「カルソニックカンセイの買収時から累計約3600億円を投資しましたが、そのエクイティ価値はかなりなくなってしまった」と認めている。(『マレリ再建は「非常に苦しい…それでも逃げない」、富士ソフト争奪戦で怒り心頭のKKR日本代表が心の内を吐露』参照)

 マレリの再建策がまとまらないのは、マレリの債権を保有するみずほ銀行を中心とする国内金融機関と、次ページで詳述する国際金融コンソーシアムの足並みがそろわないからだ。国際金融コンソーシアムは24年11月末に1回目の資金供給の条件を提示したが、国内金融機関と合意できずに頓挫。前述した同年12月の借入金返済猶予へとつながった。

 そんな中で25年2月、国際金融コンソーシアムは1回目の提案内容を修正し、さらに踏み込んだ2回目の提案を行っていることが、ダイヤモンド編集部の取材で分かった。次ページでその内容を明らかにすると共に、マレリとKKR、国内金融機関などの思惑についてレポートする。