レシピ多すぎ、コスパ悪すぎ、献立ムズすぎ、皿洗い嫌すぎ……! 初心者だろうと、日々料理を作る人だろうと、平等に立ちはだかる自炊の壁。時間も余裕もないのに、どうすれば自炊を続けられるのか?「料理を勝手に難しくしているのは自分です」と語るのは、料理を体得したミニマリスト・佐々木典士氏と、自炊料理家の山口祐加氏。新刊『自炊の壁』では、初心者がレシピなしで料理できるようになるステップ100を完全網羅している。「気持ちが楽になった」「自分のための本だ!!」と話題が広がる本書から、内容の一部を紹介する。

調味料だけが「味」ではない
佐々木典士(以下、佐々木) トマトはとてもわかりやすい例ですが、そもそも食材には、食材自体の香りがあるし、味がある。味付けをしなくても、食材には味があるんですよね。
でも「料理」して味付けしないと、まるで空気みたいに味がしないもの、そういう風に食材が扱われていることも多いと感じます。そうして味付けが過剰になると、料理が複雑な行為に見えてしまうこともありそうです。
山口祐加(以下、山口) 灯台下暗し、という感じがしますね。料理は無味無臭の食材に味付けしているわけではなくて、食材に元々ある味や香りに、足りないものを補うイメージなんですけどね。
味付けをしなくても食べられるけれど、それだと人間の脳は美味しいと感じられないから、最低限の塩分を加えるとか、肉の臭みはスパイスを入れて消そうとか、そういう発想。素材にきちんと味があるということを鑑みないで味付けしてる人は結構いるだろうなというのが、私の肌感覚です。
コンビニサラダは
ドレッシングを食べている?
佐々木 コンビニで買うサラダなんかだと、キャベツの香りや味を味わおうとはあまり思えず、ドレッシングの味がメインになってしまうのかもしれません。
山口 コンビニのサラダはドレッシングが前提ですよね。「素材の味をベースにした味付け」について説明すると、たとえば春キャベツだったら、私はめんつゆとか、焼肉のたれを合わせるのは甘すぎると思うんです。春キャベツがそもそも甘くて、ゆでると「砂糖を入れましたか?」っていうぐらいになるから。だからお酢でさっぱりさせてみようとか、そういう方向性のほうがマッチするなと考えたり。
佐々木 ぼくも山口さんの教えを受けて、素材はまず生でかじってみるようになりました。新玉ねぎは、どのぐらい甘いのか確かめたり。
山口 季節によって、野菜の味も変わりますからね。私は、料理教室でキャベツの外側と内側の食べ比べをしてもらったりしています。食感も香りも微妙に違うんです。
佐々木 面白い。それはやってみたことがないですけど、確かにそうですね。
山口 フォーの上には、もやしが生のままのってますよね。苦かったり、えぐみもあるけど、そのまま食べるとなんだか面白いんですよね。「生もやしのサラダ」はわざわざ作って食べないけど、フォーの全体的な優しさに、あの野性的な感じがアクセントになっていて、必然性がちゃんとある。調味料も同じですよね。みりんをよく使っているけれど、みりん自体をなめたことはないとか。酢も種類によって、酸っぱさが全然違いますし。
佐々木 ぼくも山口さんの教えを受けて(2回目)、みりんや酢を買ったらちゃんとなめるようにしてます。
山口 ベースを把握する前に、上の部分だけで、ちょこちょこやってる感じがするんですよね。音楽で言うと、それぞれが何の音かわかってないけど、和音を弾いているような。素材の味から発想したり、塩やしょうゆだけで味付けするところから徐々に和音のように組み合わせを発見していくほうが、料理が自分のものになると思います。
佐々木 最初はなかなかハードルが高い行為かもしれません。でも素材の味からボトムアップで料理できるとレベルが上がった感じがあるでしょうね。
(本稿は、書籍『自炊の壁』を一部抜粋・編集したものです。本書では、料理のハードルを乗り越える100の解決策を紹介しています)
作家/編集者
1979年生まれ。香川県出身。雑誌「BOMB!」「STUDIO VOICE」、写真集や書籍の編集者を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに「Minimal&Ism」を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は26か国語に翻訳され80万部以上のベストセラーに。『ぼくたちは習慣で、できている。』は12か国語へ翻訳、累計20万部突破。両書とも、増補文庫版がちくま文庫より発売。
山口祐加(やまぐち・ゆか)
自炊料理家
1992年生まれ。東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳の頃、共働きで多忙な母から「今晩の料理を作らないと、ご飯がない」と冗談で言われたのを真に受けてうどんを作ったことをきっかけに、自炊の喜びに目覚める。現在は料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や執筆業、音声配信などを行う。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』(ダイヤモンド社)など。