世界経済の重心は「インド、グローバルサウス」へ
世界のGDPに占めるG7のシェアは現在では約4割まで低下している。一方で、新興・途上国が含まれる「その他(グローバルサウス)」は徐々に存在感を高め、2022年時点で2割を超えた(図表2)。

各国の発展余地や人口動態などを勘案すると、世界経済に占めるシェアは、日欧米などの先進国が縮小する一方、アジア新興国を含むグローバルサウスは拡大するというトレンドは、今後も継続するとみられる。
欧米からアジアへ、西側先進国からグローバルサウスへという潮流のなかで捉えると、西進するアジアの経済成長の最前線でもあり、グローバルサウスの代表格ともされるインドに注目が集まることに不思議はない。インドは主要経済国のなかで最も高いGDP成長率が見込まれる国であり、これまで東南アジアを下回っていたインドのGDP規模は、2025年に逆転するとみられている(国際通貨基金〈IMF〉の2024年10月時点の予測)。
日本企業の高い関心と伸び悩む進出企業数
日本企業のインドへの関心は高い状況が続いている。国際協力銀行(JBIC)の製造業企業を対象とした調査を見ると、中期的(今後3年程度)に有望な事業展開先として、インドは2013年に初めて中国を上回った。以降も中国と1位の座を争っていたが、2022年以降は3年連続で1位となっている
しかし、進出企業数については伸び悩みの傾向がうかがえる。進出企業数を見ると、2000年代後半以降は一貫して増加基調をたどってきたが、2020年の1,455社で頭打ちとなり、COVID-19の流行の影響による撤退や拠点の閉鎖の影響もあり、現時点で最新の2022年10月時点では1,400社に減少している(図表3)。

一方で、既進出企業の業況は悪くない。ジェトロのインド進出日系企業を対象とした調査によると、2024年の営業利益見込みで「黒字」と回答した比率は、インドは前年比6.8ポイント増の77.7%と、2008年以降で最高となっている。また、今後1~2年の事業展開の方向性について「拡大」とした比率は80.3%とアジア・オセアニア全体で最も高く、2位バングラデシュ(57.7%)、3位ベトナム(56.1%)と比しても抜きんでて高い。
これらを考えあわせると、大企業を中心とする既存の進出日系企業は、経済成長や市場拡大を追い風にビジネス拡大に積極的であるものの、インドへの関心の強さは、投資や進出企業の急増には直結していない。黒字と回答した企業の比率の高さは、進出当初の数年は赤字となる新規進出企業が少ない現状を反映したものとも理解できる。
腰を据えてインド、グローバルサウスと向き合う
2023年来、グローバルサウスを新たなビジネス展開先として捉え、注目している日本企業は増えている。ここに含まれるとされる地域のうち、東南アジアは多くの日本企業が長らく事業を展開し、現地での経営資源や経験、ネットワークが蓄積され、さらに日本に対する親近感もあるという別格の存在である。残る南西アジアやアフリカ、中南米などは日本企業にとって距離と困難さが強く感じられる地域である。
ただ、そうした地域が世界経済において重みを増していくのは時代の趨勢でもある。現在、日本企業は本格的発展段階に入ってきたインドに強い関心を持ち始めているが、どうしても「遠い存在」に感じられ、また、ビジネス環境が十分ではないと思われる点も確かである。だからこそ、自社に取り込めるインドの勢いのある部分を前向きに探る姿勢を持ち、現地の動向や課題、ニーズに今までとは異なるレベル感で意識的に触れることが重要になる。
インド事業の検討が社内で停止するパターンとしてよく言われるのは、現地視察をしていない上司や決裁権限者が、当該国についての古いイメージや過去のプロジェクトの失敗経験を基に「あの国でまともなビジネスができるはずがない」と十分に検討することもなく却下するというものである。また、経営層はインド事業に前向きでも、インドに駐在することになると感じた担当者が「インドはリスクが高すぎる」と上司にネガティブな面を強調して報告することもあるとされる。過去の経験や知識を基にプロジェクトの是非を判断したり、ビジネス機会に真正面から向き合うことを避けたりする姿勢で、新しいビジネスの可能性を閉ざすことがないようにしたい。
現在の発展段階や取り巻く環境に鑑みれば、インドへの関心は一過性のもので終わらせるようなものではなく、現地への理解を常にアップデートしながら腰を据えて定常的にビジネスの可能性を探るタイミングである。
そのような捉え方やそこから得られる経験は他のグローバルサウスでのビジネスを追求する際にも応用できるであろう。分断が進む世界で中立姿勢を維持するインドをはじめとするグローバルサウス諸国において、いかに存在感を示せるか、日本企業の戦略が問われる。
次回 4/24(木) 配信予定