自然利子率は理論上の概念であって、実際にデータとして観測することはできない。
ただし、推計はできる。一定の条件のもとで、自然利子率は経済の実質潜在成長率に等しいことが、1960年代にエドムンド・フェルプスの経済成長理論によって証明されているからだ。この理論はつぎのように考えれば、直感的に了解できるだろう。
日本の経済構造の劣化で
生産性や潜在成長率が低下
物価上昇率がゼロであるような世界を考える。
そして、1単位の投資をすれば、1年後に1.1単位が回収できるとする。つまり、1年間の収益率が10%だとする(これが自然利子率だ)。
この場合、もし金利が10%より低ければ、借入れ資金で投資することによって利益を得られる。逆に、金利が10%より高ければ、投資は利益をもたらさないので、投資が抑制される。
日本の自然利子率は、1990年代以降、低下したと考えられる。アメリカが高成長を続けるのに対して、日本が低成長に陥っていることが、それを示している。日本の経済構造が劣化したために、生産性が低下し、潜在成長率が低下したのだ。
したがって、自然利子率の段階において、日米間で差が開いている。この差は、金融政策ではコントロールできないものだ。そのため、日本の金利(利子率)はアメリカの金利(利子率)より低くなり、したがって円が安くなるというメカニズムが働くことになる。
もし、長期金利を無理矢理アメリカと同じ水準にまで引き上げるとしたら、投資はほとんど行なわれなくなり、財政資金も調達できなくなる。日本経済は大混乱に陥るだろう。日本では収益性が低い投資しかできないのだ。
そうではあっても、2022年12月までは、現実の金利は抑制しすぎであった。このため、債券発行市場が歪み、海外のヘッジファンドからの投機取引が急増した。
したがって、この時点までは、金利をコントロールせず、長期金利を市場実勢に委ねることが、金利の観点からも、為替レートの観点からも、望ましいことだった。