
一定の評価はできるものの……
第三者委員会が追及できなかった重要なこと
3月31日に発表されたフジテレビ第三者委員会の報告は、厳正かつ緻密なものとして、ほとんどのメディアで好意的に報道されました。短時間に多数の人間にヒアリングを行い、特に問題の中心を中居正広の性加害に絞って検証し、メールやラインの削除など隠蔽工作まで暴露するなど、フジの関係幹部の問題点を厳しく追及したことは、私も評価したいと思います。
しかし、第三者委員会発足の時点から案じていた危惧は、やはり残ったままです。それは、第三者委員会が弁護士のみで構成されており、会社法を中心とした労働者の人権を守る行為については厳正に追及できても、捜査機関の経験者や精神医学の経験者、あるいは経営経験があって人権問題に詳しい人物といった、別の視点でこの問題を追及することができる人が存在していない点が、フジテレビの特異体質、つまり日枝久氏独裁の温存にとって、有利に働くのではないかという点でした。
案の定、日枝氏の責任については曖昧な指摘しかなく、その上第三者委員会の報告発表の寸前に日枝氏は辞任を発表。本人は記者会見もしないまま、骨折を理由に入院しました。また、報告書が出る前に新経営陣を発表しましたが、そこには日枝氏恩顧の役員も残留しています。
かつて文春時代に、日枝氏を中心としたフジサンケイグループの鹿内家独裁を覆すクーデターを側面援助するキャンペーンをはった私は、第三者委員会の報告はフジテレビ再生にまだまだ大きな課題を残してしまったという危惧を感じます。
たとえば、この問題を戦争犯罪の問題と比較してみます。報告書は港浩一社長、大多亮専務(当時)など、限られた範囲の人間で問題にフタをしたという点で複数の関係幹部の責任を追及していますが、フジは実際には取締役相談役である日枝氏の独裁下にある組織でした。厳しく指弾された幹部たちに責任があるのは当然とはいえ、彼らはいわばB級戦犯。経営権を握っていた日枝氏こそ、A級戦犯と捉えるべきではなかったのかと思います。