しかし、結果的にフジテレビは再生に向けてまた大きな問題を抱えることになってしまいました。第三者委員会が日枝氏に、解任あるいは解任相当という意見を報告しなかったことは、日枝氏が自ら取締役相談役を辞任したことを追認する形となり、当然その場合には、長年グループの多くの会社の幹部を勤めていた氏に対する「退職金」の問題が発生することになるからです。

 皮肉なことに、日枝氏がフジサンケイグループを壟断することになった契機は、その前の独裁者、鹿内信隆氏の退職金問題でした。当時17億円という巨額の退職金が支払われ、しかも本人が死去してからの退職金だったため、日本興業銀行から移ってグループ代表に就任したばかりの婿養子、3代目の宏明氏に巨額の退職金の3分の1が手渡され、その退職金の金額自体も宏明氏に一任するという決定過程の異常性が暴露されました。

鹿内家どころではない
日枝氏の「巨額退職金」問題

 そんな放送法に守られた企業にあるまじきオーナー家の“私物化”を攻撃してトップの地位についた以上、日枝氏自身の退職金は重要な問題となり得ます。

 繰り返しますが、彼は解任ではなく辞任。ということは、功労者でもある氏に退職金は確実に発生します。それもかなりの額に上ることは想像に難くありません。

 かつて鹿内信隆氏に支払われた17億円は異常な額としても、当時私が取材した役員退職金の内規を知る幹部の証言によると、「内規で計算するとその2割程度が妥当」ということでした。

 その証言は1社だけのものなので、それ以外の会社では異なる数字かもしれませんが、2割を根拠にしても4億円程度は正当な退職金だったことになります。鹿内氏と日枝氏では在任期間も引退(死去)時の立場も異なるので、きわめてアバウトな推測しかできませんが、日枝氏が手にするであろう退職金を推定してみます。

 総務省が発表する「消費者物価指数」(CPI)によれば、食品は30年前(1993年)と直近(2022年)を比べて約1.2倍になっているので、当然退職金も物価に比例して、4億円ではなく5億円近くになるという計算が成り立ちます。