しかも、現在の新執行部には清水賢治・フジテレビ社長や、金光修・FMH社長など、日枝氏恩顧のメンバーが残っていて、日枝氏の功績を無視して退職金を「解任相当」として支払わないという決定は、出しにくい可能性が高いと考えます。

 これを「解任相当」として退職金をゼロにすれば、フジ再生の道には相当明るい未来が見えますが、金光社長は「忖度自体は悪いものではない」と発言している人物ですし、清水新社長は中居問題について「あらゆる選択肢がある」という官僚的答弁で押し通しています。となると、本当にフジ再生に責任感を持つ新役員は退職金問題で対立するでしょう。場合によっては、もう一度新しい役員会が作られ、株主総会で2つの役員会案が対立して、立候補者が出るという事態もありえます。

守秘義務解除の努力を見せない
フジテレビの前途多難

 さらに報告書が残したもう1つの問題が、中居正広へのフジテレビの今後の対応です。事件発生直後は公にしたくないという被害者の意志がありましたが、現在は第三者委員会の調査に守秘義務を解除して協力するというスタンスをとっているため、事件の実態解明と中居氏の性加害に対してフジテレビ新執行部がどう考えているかは、重要なポイントとなるでしょう。

 実際、中居正広は守秘義務を楯に第三者委員会への詳細な供述を拒否しています。しかし、中居が弁護を頼んだ弁護士は犬塚浩弁護士。長年、フジから法律相談の委託料を支払われていました(契約はありません)。だからこそ、フジテレビは弁護士を通して守秘義務解除を説得するべきだったと考えますが、その努力の痕跡は見られません。

 日枝氏に巨額の退職金が支払われ、中居がこのまま無罪放免となったら、新生フジにCMスポンサーは戻ってくるのか。そんなことを世論が許すのでしょうか。株主総会や株主代表訴訟を考えても、この問題はフジテレビのアキレス腱になりかねません。

(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)