
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第11回は、かつてスティーブ・ジョブズも提唱した、職人の働き方について解説する。
“たかがTシャツ”なんて絶対に言わせない
Tシャツのサンプル納品期限が迫るなか、ストライキを先導する“大ボス従業員”ことヤエコ(片岩八重子)の説得に動き出した主人公・花岡拳。早々にヤエコの家へと赴き、昼食をとりながらの話し合いを提案する。
「そんなものに釣られないわよ」
そう話すヤエコを花岡は強引に車に乗せ、すぐに済む用事だと言い、かつて所属していたボクシングジムへ連れ出した。花岡はジムの会長から、売り出し中のボクサー・坂東(6話に登場)の後援会向けのTシャツを受注しており、食事前にその打ち合わせに向かったのだ。
「すべてを知り尽くしてるウチの最高技術者ですから」
会長からの技術的な質問を都度ヤエコに尋ね、間接的に技術力を持ち上げる花岡。ヤエコも「おだてたってダメ」と言いつつも、まんざらでもない表情を浮かべる。
そこに当の坂東が現れるのだが、彼の言葉で場の雰囲気は一変する。
「たかがTシャツでしょ。こんなTシャツ一枚売っていくら儲かるの?」
坂東の言葉に激高するヤエコ。「ちょっと、あんたあ!いい加減にしなさいよ!」「私達の技術は最高よ!それを“たかが”なんて二度と…絶対にいわせない」と食ってかかる。
そのタイミングですかさず会長に目配せをする花岡。あうんの呼吸でその意図を察し、会長がヤエコを絶賛。ぜひともTシャツを縫ってもらいたいと言い聞かせるのであった。
花岡の狙いはずばり、ヤエコの「職人としてのプライド」を刺激すること。ヤエコたちをプロとして評価することで、ストライキを解除し、仕事に向かわせようとしていたのだ。その後の展開はマンガでご覧いただきたい。
あのスティーブ・ジョブズが、オフィスに海賊旗を掲げたワケ

自社の社長の前で、クライアントである坂東たちに食ってかかったヤエコ。その様子は、ビジネスの場での正解とは言えないかもしれない。だがプロとして評価し、ヤエコ自身に自覚を持たせた花岡は、さながら若き日のスティーブ・ジョブズにも似た組織運営のセンスを感じる。
ジョブズは、アップルのパーソナルコンピュータである「Macintosh」の開発時に、チームにこんなメッセージを伝えている。
“It’s more fun to be a pirate than to join the navy.”(海軍に入るより、海賊であれ)
ジョブズはこのとき、「本物の芸術家は船に乗る(アーティスト思考でモノを作ろう)」「1986年までにマックを本の中に入れる(小型化しよう)」というメッセージも打ち出しているのだが、ここでは“海賊であれ”というメッセージについて取り上げたい。
海軍ではなく海賊――これはつまり、型破りな職人や天才的なエンジニアたちを評価しようということだ。
彼ら彼女らのプライド、そして自主性を尊重して、さらに裁量を与えた開発環境こそが、今につながる同社の根幹を作ったのだろう。そう考えれば、ヤエコの職人気質を生かそうとする花岡の考えは、ジョブズと重なる部分があると言ってもいいのではないだろうか。
ヤエコの誇りを刺激することで、無事Tシャツの製作を進めることができた花岡。次なる一手を打つべく、ある格闘技イベントに注目するのだった。

