米国・ボストンで1886年に設立された、世界最古の経営コンサルティングファームとして知られるのが、現在は欧州に本社を構え、大手戦略系ファームの一角を占めるアーサー・ディ・リトル(ADL)だ。長期連載『コンサル大解剖』の本稿では、来日したイグナシオ・ガルシア・アルベス会長兼CEOを直撃。歴史観を踏まえた自社の強みや、ブーム一巡が指摘されるグローバルのコンサル市場の現状や先行き、AIがコンサルの仕事に与える影響のほか、ストラテジー(戦略)とインプリ(実装)の領域が入り乱れる業界の現状などについて、考えを明かしてもらった(聞き手/ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
年平均15.5%で成長
競合を上回った理由とは?
――アーサー・ディ・リトル(ADL)は、2014年~23年の世界売上高のCAGR(年平均成長率)が15.5%と、市場平均(6%)を凌駕(りょうが)し、戦略ファームの競合であるBCGやマッキンゼー・アンド・カンパニーをも上回ったと明かしています。なぜ、高成長を実現できたと考えていますか。
まず、振り返れば私たちは2011年、ADLをプライベート・パートナーシップの形に戻しました(編集部注:MBO〈経営陣による買収〉を実施)。その前までは、パートナーでも一従業員に過ぎませんでしたが、株主という立場に変わったわけです。それにより、権限を与えられたパートナーであると同時に、株主となり、従業員が結果に対して大きな責任を持つようになるという最初の大きな変化がありました。
二つ目の変化は、14年に(社内で)「ブレークスルー」と名付けたプログラムを導入したことです。これは、コンサルタントを“起業家”に変革させるためのものでした。コンサルタントというのはそもそも、基本的に完璧主義で少々リスクを嫌がる傾向がみられる存在です。これに対し、未来を志向し、成長を加速させるべくメンタル面での変化を起こしました。
ユウスケ(ADLジャパンの原田裕介マネージング パートナー・日本代表)らと13~14年ごろ、東京でブレークスルー・プログラムについて議論したのを今でも覚えています。私は当時、「日本のチームを今の3倍の規模にできると思うか」と尋ねました。すると「状況は複雑だ」といった返答でした。
とはいえ、実際に日本は、チームの自主的な努力で、同プログラムの中でもベストな結果を示したオフィスの一つとなりました。コンサルタントの起業家精神を活かすことに、ここでも成功したわけです。
私たちは日々、顧客志向のさらなる向上に努め、それが健全なサイクルを促しています。最終的に、それは「人」の問題に行き着きます。一人で多くのことはできませんが、ADLが成功するほど人が集まり、働きたいと思う人も増えます。そのような好循環の加速が、日本でも見られていると感じています。
――ADLと他のコンサルファームを比べた時、最大の差別化要素は何だと考えていますか。
次ページ以降では、ADLのイグナシオ・ガルシア・アルベス会長兼CEOに、産業革命期の19世紀に誕生した歴史的な経緯などを踏まえた自社の強みや、ブーム一巡が指摘されるグローバルなコンサル市場の現状や先行き、「戦略コンサル消滅論」の真偽、ストラテジー(戦略)とインプリ(実装)の領域が入り乱れる業界の現状などについて語ってもらった。