準大手ゼネコンの三井住友建設が請け負ったものの進捗が遅れている都心屈指の大型プロジェクト「麻布台ヒルズ」のマンション工事について、竣工時期がさらに1年2カ月延長されることがダイヤモンド編集部の取材で分かった。三井、住友の両グループに属する三井住友建設は麻布台ヒルズだけでなく複数の“爆弾”を抱え、対処を誤れば「両グループ脱退」の最悪シナリオが現実味を帯びてくる。特集『三菱・三井・住友 揺らぐ最強財閥』の#1では、三井住友建設に迫る最悪シナリオの全容を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
3期連続の最終赤字回避も
複数の“爆弾”を抱えている
そのお知らせは、こっそり“上書き”されていた。
ゼネコン準大手の三井住友建設は、森ビルが手掛ける都内屈指の大型プロジェクト「麻布台ヒルズ」のタワーマンション工事の工期を2025年8月まで延長することを決めた。工事現場に掲示されている建築計画では、工事の完了予定が25年8月25日に変更されていた。工期の延長は2回目で、竣工は当初予定から2年5カ月も遅れることになった。
麻布台ヒルズのタワーマンションは、高さ日本一(262.82メートル)のマンションというシンボリックなプロジェクト。「日本一」という称号はゼネコンの挑戦意欲をかき立てるものではある。しかし身の丈を大幅に超え赤字覚悟で麻布台ヒルズのプロジェクトを受注した三井住友建設は、手痛過ぎるしっぺ返しを食らった。
度重なるトラブルで採算が悪化し、三井住友建設は22年3月期から2期連続で最終赤字(22年3月期70億円、23年3月期257億円)に沈んだ。当時の新井英雄取締役会長が事実上の引責辞任に追い込まれ、メインバンクである三井住友銀行出身の近藤重敏代表取締役社長が麻布台ヒルズの“完遂”を引き受け、受注抑制などを進めて経営再建に当たった。
近藤社長の経営再建への取り組みが奏功し、3期連続の最終赤字を回避できるめどが立った24年1月、事件は起きた。反社長派による“クーデター”だ。君島章兒取締役会長を含む反社長派の取締役5人が、三井住友銀行の福留朗裕頭取宛てに、社長解任を訴える“連判状”を提出したのだ。
三井住友銀行も巻き込んだ激しい暗闘の末、君島会長と近藤社長が“相打ち”の形でいずれも退任し、代表取締役専務執行役員だった柴田敏雄氏が社長に昇格して「柴田政権」が4月からスタートしていた。24年3月期は3期ぶりの黒字を確保し、麻布台ヒルズも社内抗争も一件落着したかに見えた。
しかし、火種はくすぶったままだった。三井住友建設は麻布台ヒルズだけでなく、複数の“爆弾”を抱えているのだ。
麻布台ヒルズの工期がさらに1年2カ月延びたことによって、三井住友建設は25年3月期決算で再び特別損失を計上し、業績に大きな影響を及ぼす可能性がある。
そして、三井住友建設には自社を奈落の底に突き落としかねない最悪シナリオが待っているのだ。それはゼネコン業界の再編だ。麻布台ヒルズの失態をきっかけに、これまで業界関係者の間で「どこが三井住友建設を買収するのか」という観測はたびたび浮上した。その観測が再燃する公算が大きい。
実のところ、その鍵を握るのは、身内ともいえる三井・住友グループの三井不動産や住友不動産といった主力企業だ。最悪シナリオの終着地は、三井・住友グループからの“除名”、つまりグループ脱退である。
次ページでは、三井住友建設に迫る最悪シナリオの全容をつまびらかにする。三井住友建設の行く末を左右する三井・住友グループの主力企業とのゴタゴタや、三井住友建設が抱える複数の爆弾の正体も明らかにする。依然としてうわさの絶えない三井住友建設の“身売り先”の実名も紹介する。