海運激変! トランプ関税下の暗夜航路#11Photo:franckreporter/gettyimages

イスラエルとイランが停戦に合意したが、その後もイスラエルはイランの停戦違反を主張し攻撃を行っており、依然として火種がくすぶっている。特集『海運激変! トランプ関税下の暗夜航路』の#11では、中東情勢悪化による海運会社への影響を日本郵船、商船三井、川崎汽船、飯野海運へのアンケート結果とともに分析。また過去の中東危機と比較して、日本の原油サプライチェーンリスクを明らかにした。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)

中東情勢悪化でタンカー衝突
海運業界への影響は?

「ジャミングで周囲の船がレーダーから消え、“ゴーストシップ”が突然目の前に現れることは、この海域では珍しくない」

 ホルムズ海峡を航行した経験を持つ航海士は、同海峡で起きている異常事態をそう語る。実際、6月17日にはアラブ首長国連邦(UAE)沖で石油タンカー2隻が衝突・炎上する事故が発生。中東のエネルギー資源輸送の要所であるホルムズ海峡では、戦闘の影響が商船にも波及した。

 中東情勢の悪化は、エネルギー資源の豊富な中東地域からの化石燃料の供給に多大な影響を与える。2023年の世界全体の石油生産量のうち中東諸国は31.5%のシェアがあり、この地域のエネルギー供給がストップすれば、世界全体のサプライチェーンに影響が出ることは必至だ。

 エネルギー資源に乏しい日本はその中でも中東依存度が高く、原油輸入量の94.7%が中東から賄われている。そのパイプ役を担うのが日本郵船、商船三井、川崎汽船、飯野海運などの海運大手である。

 しかし、その“動脈”にも戦闘の余波が及んだ。前出の航海士が語るように、電波妨害によって商船の位置情報が遮断されるリスクも依然高い。

 さらにペルシャ湾には代替ルートがない。イエメンの反政府勢力フーシ派による商船への攻撃が続く紅海では、多くの船が喜望峰を経由し、迂回して輸送を継続している。

 紅海とは異なり、ペルシャ湾の中から海上で物資を運ぶ場合、ホルムズ海峡を通らずに目的地へ向かう道は存在しない。そのため、海峡の安全確保は日本にとって死活的な課題となっている。

 今回の紛争によって海運会社にはどのような影響が発生するのか。中東からエネルギー資源を輸送する日本郵船、商船三井、川崎汽船、飯野海運の大手4社に緊急アンケートを実施。次ページではその結果を公表するとともに、事業への影響と過去の中東情勢悪化の事例から、現在の日本の石油供給網の課題を明らかにする。