
日本郵船グループの郵船クルーズが34年ぶりの新造船「飛鳥III」を7月20日に就航させる。これにより同社はクルーズ船2隻体制となり、事業が拡大。クルーズ船市場が盛り上がりを見せている。特集『海運激変! トランプ関税下の暗夜航路』#12では、6月に社長に就任した西島裕司氏が、飛鳥IIIの就航秘話やオリエンタルランドとの提携の狙いを語った。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
コロナ禍に新造船プロジェクト始動
悲願の2隻体制で「第二の創業」へ
――34年ぶりの新造船「飛鳥III」就航の直前に社長に就任されましたが、新社長としての抱負を聞かせてください。
飛鳥IIIの運航開始により初代飛鳥が就航した1991年から34年目にして、わが社は初めてクルーズ船2隻の事業展開になります。
郵船クルーズにとっては1隻体制で長らく事業をしてきたので、2隻体制になって組織も拡大しなければいけない。私は今の時期を「第二の創業」だと考えています。
この重大なタイミングで郵船クルーズの社長を任されたことに対して、身の引き締まる思いです。おかげさまで飛鳥クルーズに対する世間の認知度は高まってきていますし、われわれは34年間積み上げてきた信頼と実績を武器として商売をしています。
2隻運航になるタイミングで、これまで築いてきた価値を毀損することは当然してはいけない。さらにブランド力を高めていかなければいけないと感じています。
――BtoBの輸送事業だと、船を新造することはさほど珍しいことではないですが、客船事業だと船を1隻増やす難易度は別物なのでしょうか。
そもそも船隊の規模が違います。例えば500隻の中の1隻と、2隻の中の1隻では、事業にとってのインパクトは異なる。そして客船は船価も他の船とは違います。商船の中でも比較的高価なLNG(液化天然ガス)船と比較しても、断然高い。クルーズ船はLNG船の船価の倍くらいします。
コロナ禍の頃は客船の発注が少なかったので、若干船価は割安だったのですが、コロナが明けてからは発注ラッシュが来ていますので、高くなってきている。
客船を造ることのできる造船所は日本にはないですし、世界中で2社ほどに限られているので、売り手市場になっている側面もあります。
――飛鳥IIIはいつ頃から新造する計画が立ち上がったのでしょうか。
本格的な新造船プロジェクトが始まったのは4年前です。新造船の計画はその前から出ては消えを繰り返していたようですが、現在の飛鳥IIIに至る本格的な検討をして、造船所に発注したのは2021年になります。
――コロナ禍だった21年は客船の需要も激減していたと思います。この時期に新造船を発注された理由を教えてください。
次ページでは、西島社長がクルーズ船2隻体制での勝算、そしてオリエンタルランドと提携を発表した経緯と狙いについて語る。