
商船三井がクルーズ船事業を拡大している。2024年12月にクルーズ船「MITSUI OCEAN FUJI」を就航させ、25年8月には新クルーズ船「MITSUI OCEAN SAKURA」の船名を発表、さらに3隻目を投入する考えだ。国土交通省がクルーズ人口100万人を掲げる中、ライバルの日本郵船も「飛鳥III」を就航させるなどクルーズ船市場が盛り上がってきている。特集『海運激変! トランプ関税下の暗夜航路』#13では商船三井グループの商船三井クルーズ向井恒道社長に、拡大戦略を取る理由、ライバル日本郵船との関係、日本のクルーズ業界の課題を聞いた。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
クルーズ人口100万人へ市場拡大中
商船三井は3隻目投入も視野
――クルーズ事業を新型コロナウイルス感染拡大中に拡大に踏み切った背景を教えてください。
世界のクルーズ市場に目を向けると、欧米やオーストラリアでは2022年の後半からクルーズが再開し、23年には客足がすでに回復していました。欧米の状況を見ていて、この流れは必ず日本にも来ると考えていたので、早めに事業を再構築し、23年10月に新ブランド「MITSUI OCEAN CRUISES」を立ち上げました。
日本でも23年5月には新型コロナウイルスの位置付けが2類から5類に移行され、レジャーに行くことが心理的にも許容されるようになった。そこからわれわれのクルーズ事業も需要が戻ってきていました。
そこでたまたまクルーズ船を1隻入手できたので、24年12月にMITSUI OCEAN CRUISESブランドの1隻目として「MITSUI OCEAN FUJI」をデビューさせることができました。ようやくお客さまが戻ってきたときに肝心の船が足りなければ、需要をつかむことができませんし、なにより認知が遅くなってしまう。
この1年は特にお客さまからクルーズ船に乗りたいと言っていただく機会が増え、ブッキング、問い合わせ共に多くなってきています。

――たまたまクルーズ船を入手できたとのことですが、どのような経緯だったのでしょうか。
新造船だと完成するまでに数年かかります。それでは船が出来上がるより前に需要の波が来てしまう。レジャー需要が回復している中で、今すぐに船が必要でした。そこで、われわれに譲ってもらえる船がないか世界中を探し求めました。
その結果、米国のシーボーンからクルーズ船「シーボーン・オデッセイ」を売っていただける交渉が成立し、商船三井が購入しました。その船をMITSUI OCEAN FUJIとして運航させ、「にっぽん丸」と合わせて2隻体制で事業を展開しています。
――さらにシーボーンから1隻追加購入し、「MITSUI OCEAN SAKURA」として26年後半に運航を開始します。
そうなります。26年にはにっぽん丸が引退するので、MITSUI OCEAN SAKURAと入れ替えて、フジとサクラの2隻になります。しかし、この2隻だけで終わらせるつもりではありません。さらにその先を見据えて、新造船を入れていく計画です。
――3隻体制になるのは何年後ですか。
先ほど申し上げたように造船は数年の歳月を要するので、デビューは30年以降になると思います。
――23年に発表した中期経営計画では、クルーズ事業を安定収益型事業と位置付けています。こうした中、国土交通省は24年に22.4万人だった日本人のクルーズ人口を30年までに100万人へ拡大する目標を掲げました。
われわれはクルーズ事業の将来性が非常に大きいと思っています。とりわけ、クルーズ船の認知が低かったコロナ前の19年の段階で、クルーズ人口は35万人でした。
われわれがこの1年半でやってきたマーケティングのエネルギー以上の力を、コロナ前に注ぎ込んできたのかと聞かれれば、そうではない。
コロナ前より今の方がよっぽど力を入れている。われわれの船は2隻になりましたし、日本の船会社としては、郵船クルーズさんが今年の7月に「飛鳥III」を就航させ、今後はオリエンタルランドさんのディズニー・クルーズも入って、業界全体が盛り上がっています。
クルーズ人口100万人の目標に向けて、われわれとしてはまずこの2隻でしっかりと、お客さまの需要に応えられる実績を残していく。ここにヒト・モノ・カネを投入していきます。
――日本郵船グループの郵船クルーズも今年からは飛鳥IIと飛鳥IIIの2隻体制になりました。ライバルも事業を拡大している状況をどのように見ていますか。
クルーズ船事業を拡大させる商船三井。8月に発表されたMITSUI OCEAN SAKURAだけでなく、向井社長は3隻目の就航にも意欲的だが、ライバル・日本郵船の飛鳥IIIの就航やオリエンタルランドによるディズニー・クルーズ参入をどのように見ているのか。そして、クルーズ人口100万人に向けて、世界のクルーズ船会社にはあって、日本のクルーズ船にはまだないものが存在しているという。それは何か。