海運激変! トランプ関税下の暗夜航路#10Photo by Yoshihisa Wada

海運業界3位の川崎汽船。上位2社が非海運事業に積極投資を行う中、同社は“海運一本足打法”で事業強化を模索中だ。しかし、本業の収益性でも日本郵船と商船三井の後塵を拝している。この状況からどのように成長していくのか。特集『海運激変! トランプ関税下の暗夜航路』の#10では、3月に就任した五十嵐武宣社長が川崎汽船の強みを生かした成長戦略、そして大株主であるエフィッシモ・キャピタル・マネジメントとの関係について激白した。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)

特殊貨物輸送が強み
付加価値上げて収益性向上なるか

――今年3月に社長に就任されましたが、これまでのキャリアと新社長としての抱負を聞かせてください。

 私は入社以来、一貫して自動車船に携わりました。英国にも2度駐在し、通算で8年間、現地で勤務しています。

 一方で経理や経営企画にも所属し、経営企画時代は明珍幸一前社長が直属の上司でした。海運不況だった2010年代の後半、明珍とコンビを組んで対策を講じました。

 今、世界情勢は依然として不透明で、顧客も含めて大変革期にあります。

 だからこそ、社員一人一人がアニマルスピリットを発揮し、目の前の課題を地道に乗り越えていくことが大切です。会社が次の時代を切り開けるよう、全員で前進できる環境にすることが、私に課された使命だと考えています。

――現状では、川崎汽船はアニマルスピリットに欠けているのでしょうか。

 引っ込み思案な社員もいるので、野心を持つことが重要だと、改めて言いたい。

 先行きの見通しが立ちにくい環境の中で、「安全だから」「安心だから」と安住していては事業が停滞してしまう。そうではなく、社員一人一人が、良いと思ったことに取り組める会社にしたい。

――明珍前社長は「海運集中で収益を伸ばせる」と以前インタビューで発言していましたが、この方針は踏襲するのでしょうか。

 私の考えは、当社の強みを生かせる領域での事業拡大です。では強みは何かといわれると、安全運航、船舶管理、特殊貨物の輸送です。

 LNG(液化天然ガス)燃料の自動車船など環境対応船を運航する技術力でも高い評価を得ています。まずはこうした強みを最大限に生かせる海運業を軸に収益力を高めつつ、その周辺領域にも積極的に挑戦し、事業拡大を図る。これが基本方針です。

 自信を持てる分野でこそ勝負すべきだとの考えは、前社長の方針を継承しつつ、さらに発展させていきます。

――もう少し具体的に、川崎汽船の各事業の競争優位性を教えてください。

 自動車船で申し上げますと、ハイ・アンド・ヘビー(大型・重量物)輸送です。乗用車やトラックだけでなく、ブルドーザーやクレーンなど背が高く重い建設機械、さらには油井管などの資材も小ロット・高頻度で運べるのが当社の自動車船の特長です。

 こうした貨物を安全に積み降ろしできるよう、マーフィートレーラー(重機や長い貨物を積載するトレーラー)や専用のラッシング資材(荷物を固定する資材)を充実させており、東アジアでは随一の対応力を持つキャリアだと自負しています。

 エネルギー事業では、LNGをはじめ各種液化ガスを長年輸送してきた経験から、陸上支援体制や乗組員の育成に厚みがあります。最近では脱炭素として期待されている液化CO2の貯蔵事業の海上輸送を担う新規ビジネスに取り組んでおり、これまで培ってきた知見を活用できると考えている。LNG輸送も来年度には受注量が増える見通しです。

 ドライバルクは主に鉄鋼原料の輸送になりますが、顧客の鉄鋼会社では、カーボンニュートラルに向けてスクラップや還元鉄の利用が検討されています。

 例えば、還元鉄は水分の付着で発熱・発火するリスクがあり、輸送に高度なスキルが求められる。当社では試験輸送を重ね、最適量・最適条件で安全に運ぶオペレーションを確立しつつあります。本格的な輸送需要が出てくることを期待している事業です。

 これら特殊貨物は付加価値が高く、相応の利益率を確保できる点も当社の優位性です。質の高いサービスで顧客課題を解決することこそ、当社の揺るぎない競争力だと考えています。

――特集『海運激変! トランプ関税下の暗夜航路』の#1で川崎汽船、日本郵船、商船三井の非コンテナ船の各事業の業績を分析したところ、川崎汽船の経常利益率が2社に比べて低いものが多かった。その要因はどこにあるのですか。

次ページでは、五十嵐社長が本業の収益性で上位2社に劣る理由、そして大株主のエフィッシモとの関係について語る。