米国債市場、スピルオーバー懸念すべき理由Photo:JByard/gettyimages

 米国債の入札はトイレの配管のようなものだ。何か異常があるときにだけ注目される。21日は入札の不調をきっかけに相場が急落したが、これは2023年終盤以来のことだった。スピルオーバー(漏出)を懸念すべき正当な理由がある。

 今回の入札自体は平穏無事に終わるはずだった。およそ160億ドル(約2兆3000億円)相当の20年債の入札で、それほど注目を集めるはずのものではなかった。しかし、通常よりも需要が少なく、入札前の予想と比べて価格が下がったため、政府の借り入れコストが上昇した。

 需要の低迷はそれ自体、良いことではない。ただ、より広範な市場の反応はひどいものだった。株価は1.5%下落し、債券利回りは急上昇した。そして最悪なのは、利回りが上昇したにもかかわらず、ドルが下落したことだ。30年債利回りは22日、2023年の水準を上回り、2007年以来の高水準となった。配管工を呼ぶときが来た。

 今起きている大きな三つのことについて述べようと思うが、まず1点注意してほしい。それは、今回の入札で米政府が資金を調達できなかったわけではなく、政府が発行する債券の購入が拒否されたわけでも、米国債市場が崩壊したわけでもないということだ。投資家がリスクに対して、より高い利回りを要求しているということであり、これは悪い兆候だ。

 一つ目に、投資家は米国の借り入れが制御不能になっているのではないかと懸念している。22日に議会下院を通過したドナルド・トランプ大統領の減税法案は、既に巨額の政府債務を今後10年間で何兆ドルも増やすものだ。これは、米国債が先週、唯一残っていた最上位の「AAA」の格付けを失った理由の一つだ。米経済が既にフル稼働に近い状態にある中で借り入れが増えれば、インフレ圧力が高まり、連邦準備制度理事会(FRB)がより高い金利をより長く維持することにつながる可能性がある。投資家は埋め合わせのために、より高い利回りを求める。金利コストの増加は、結果として、さらなる借り入れにつながる。そして、政治家は赤字を抑制できるほど十分な歳出削減や増税を行うことに消極的なように見える。

 二つ目は、トレーダーたちが常に、資金の流れに関する調査やデータを追跡しながら他の投資家の見方を予想して動いているということだ。しかし、国債入札で応札が低調だったことは、長期債への需要がトレーダーらの予想より少ないことを明確に示した。経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、市場を「美人コンテスト」に例えるという素晴らしい発想を提供した。このコンテストで重要なのは、自分が一番美しいと思う存在を選ぶことではなく、自分以外の審査員がどの出場者を一番魅力的に感じて選ぶのかを予想することだ。今回の国債入札でトレーダーたちは、他の投資家が利回り5%未満の長期債に魅力を感じると考えていたが、その予想は外れた。