第二に、ラーメンは庶民的な料理で、高級寿司店のように何を注文すればいいのかを考える必要もなく、気軽に食べることができます。つまり、ラーメンは美味しく、手早く、高価ではなく、満足感も得られる魅力的な食事なのです。

 日本ラーメンブームは、海外にラーメン店が増えていることにも関係しています。2004年に私がラーメンの歴史を調べ始めた当時は、外国人のラーメンの認識は、インスタントラーメンでした。インスタントラーメンも好きですが、塩辛くてあまり健康的ではありません。

 海外では日本人が経営するラーメン店だけでなく、今では外国人が経営するラーメン店が増えています。日本の食材が入手しやすくなり、日本料理の要素や食材の人気が高いです。

――あなたの本によると、ラーメンで日中関係の歴史が分かるのですか?

 ラーメンの歴史は、日中関係を考察するもう一つの入り口です。近代日本にとって文化や思想の仲介者・伝達者として中国人がいかに重要であったかを示しています。

バラク・クシュナー/ケンブリッジ大学教授バラク・クシュナー/1968年アメリカ生まれ。プリンストン大学で博士号を取得。デイヴィッドソン大学歴史学研究科、アメリカ国務省東アジア課などを経て、ケンブリッジ大学アジア・中東学部日本学科教授。著書に、Yoichi Funabashi and Barak Kushner, eds. Examining Japan's Lost Decades. London: Routledge共著、邦訳:船橋洋一編著『検証 日本の「失われた20年」日本はなぜ停滞から抜け出せなかったのか』(東洋経済新報社、2015年)、『思想戦――大日本帝国のプロパガンダ』(明石書店、2016年)、『ラーメンの歴史学――ホットな国民食からクールな世界食へ』(明石書店、2018年)などがある。

 ラーメンがどのように生まれ、変わってきたかは、日本を理解する上で大いに役立ちます。それは、日中間の戦争や敵対関係から生まれたものではないストーリーです。数百年にわたり二国間を行き来し、製粉や製麺技術をもたらした人々に目を向けると、豊かで深い交流があったことが分かります。

 近年の暗い時代においても、心温まるストーリーが私たちに教えてくれるのは、国の変化は近隣諸国との交流から生まれ、深く永続的な影響を与えるということ。日本を理解するには、中国、韓国をはじめとした他の場所に目を向ける必要があります。もちろん、これは日本に限ったことではなく、アメリカやイギリスなど、どの国にも当てはまります。

――2025年は世界大戦から80年の節目ですが、トランプ米大統領が就任したこともあり世界は混沌としています。特に東アジアの政治、経済、社会は今後どのように変化していくと思いますか。

「不安定さ」(instability)がキーワードになると思います。トランプ氏は世界のために何か具体的な目的があるようには見えず、ただ混乱を引き起こす、威圧的な人物です。彼の行動はアメリカのみならず世界を分裂させています。各国は団結して、米政権に立ち向かわなければならないでしょう。