謝罪が持つ心理的効果
事件や事故の被害者や被害者遺族が、加害者の謝罪によって、怒りの矛先を収める様子や、加害者があくまでも非を認めず謝罪を拒むと被害者や被害者遺族が怒りをますます強め、加害者に激しく謝罪を求める様子が、テレビのニュース等で報道されるのを見たことがあるだろう。
そこまで深刻な事態でなく、ちょっときついことを言って傷つけてしまったときや余分な負担をかけてしまったときなどでも、「言い方がきつくなってしまってすみません。気持ちに余裕をなくしていたものですから」「余分な負担をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」などと謝罪を受ければ、傷ついた気持ちや苛立った気持ちも癒され、攻撃的な感情は消え、「いいえ、気にしないでください」といった感じになって、関係性は良好に保たれる。
被害を受けた人が強く謝罪を求めるのも、加害側の謝罪によって傷ついた気持ちが救われたり苛立つ気持ちが和らいだりして、心が癒されるからである。
謝罪に、このような心理的効果があることは、多くの心理学の研究によって証明されている。

たとえば、心理学者の大渕憲一たちは、実験助手(=加害者)の不手際によって参加者(=被害者)が実験課題で良い成績を取れなかった場面を想定した実験を行っている。その結果、加害者が不手際を謝罪することで、被害者の攻撃的感情が和らぎ、加害者に対する印象も改善され、被害者が寛大な気持ちになることが確認されている。
その他にも、多くの心理学の研究が行われており、謝罪が被害者の攻撃的反応を抑制することや、謝罪には加害者に対する被害者の許しを促進する効果があることなどが証明されている。
さらには、ていねいな謝罪が加害者に対する被害者の共感を喚起する効果があることも証明されている。たとえば、謝罪する側も十分に苦しんだのだというような共感は、加害者に対する許しを促すことになる。
このように、謝罪することによって、何らかの被害を受けたことによる攻撃的な反応が緩和され、加害者側と被害者側の関係が改善されることが、多くの研究により証明されている。謝罪をする際には、このような謝罪の持つ意味を考えて、効果的かつ誠意ある謝罪をするように心がけたいものである。