着用が義務化されていないシートベルトは、わざわざ気にしたり着用したりするのが面倒・カッコ悪い・無駄と認識されていたきらいがある。ヘルメットがそのかつてのシートベルトの道程をなぞっているような按配で、今はまだ「わざわざつけるのがださい物」である。
国としても急に「義務化」とするより、「努力義務」でワンクッション置いてからやがて義務化することで反発を少なく抑えたいのかもしれない。時代は近年に近づくほど命をより尊ぶ方向にいっているので、この路線のまま進むならいずれヘルメットも着用が義務化されるかもしれない。
海外のヘルメット事情は?
「子どもだけ義務」の国も
しかし海外の「自転車ヘルメット義務化」事情について調べると、また別の展開も予測されてくる。現在、サイクリストのヘルメットの着用が義務付けられているのはオーストラリアや韓国(違反しても罰金はない)などの数カ国に留まり、州によっては義務化されているアメリカやカナダ、「子どもだけ義務」など年齢によって制限のあるフランス、まったく縛りのないドイツ、デンマーク、オランダなどがある。
つまり、自転車先進国であってもヘルメット観はさまざまである。
面白いのはイタリアやポーランドで、かつてヘルメット着用義務化に向けての動きがあったのだが、自転車連盟やサイクリスト団体に阻止されて今日に至るらしい。
イギリスでも「安全のためにヘルメットを」と呼びかける医師会と「個人の自由」とする自転車擁護団体の対立があったりして、かぶるかぶらないの葛藤があることは珍しくはなさそうである。自転車先進諸国で確認されている現象であり、日本も将来同様の葛藤に陥る可能性はある。
とはいえヨーロッパの自転車事情は、
・自転車が本気寄りで速い(日本はママチャリが多くて本気度が低い)
・自転車道が整備されている
・脱いだヘルメットが邪魔になりにくい生活スタイル(自転車のドアtoドアで通勤・通学が完結しやすい)
などの点で日本と異なるので、比較の際はそれを念頭に慎重に行うべきであろう。
日本ではわけがわからないと評判の、ヘルメット着用の「努力義務」も、少し角度を変えればライフスタイルとして楽しめることを個人的に発見できた。髪がぺしゃんこになったり、ヘルメットを抱えて満員電車に乗りにくかったり、無論ヘルメットにまつわる面倒さはあるので、それらに目をつぶれるくらいのメリットや楽しさをヘルメットに見出せるかが肝になる。
先日見かけた老齢のサイクリストが思い出される。高齢者が乗る自転車というとほとんどママチャリのイメージだが、その人はクロスバイク(スポーツタイプの自転車)に乗って、車道を品よく走っていた。目を引くのは着用しているヘルメットで、車用のシルバーマークが大きく貼り付けられていたのである。すこぶるお洒落であり、自転車とヘルメットを謳歌しているのが伝わってきた。あれはぜひとも目指したい境地である。