よくわからないのに非難する風潮、企業はどうすべき?
しかし、情報が完全に遮断された状態では、企業の自浄作用に対する信頼は生まれようがない。
週刊文春の最新号の記事も「猥褻動画をスタッフに送った」「男性ADを全裸で川に」といった疑惑を関係者の証言として紹介するに留まり、事件の核心は闇の中だ。
事実関係が確定しないまま社会的制裁だけが下されるこの状況は、司法の場で争われている松本人志氏の事案とも共通する。私たちは、実際のところがわからないのに、感情的に加担し、対象者を非難して終わらせてしまいがちだ。現代社会と企業が直面する根深い課題である。
こうした風潮は建設的とは言えない。中居正広氏の例を出すまでもなく、一度過ちを犯した、あるいは疑いを持たれた人間を社会から完全に排除するのではなく、いかにして再生への道筋を透明かつ公正に設計するかが問われる。
本稿は、国際的な企業行動の指針である「多国籍企業の責任ある企業行動に関するOECDガイドライン」2023年版に基づき、今回の難問に対する制度的な処方箋を提示したい。
詳細がわからないコンプラ違反に企業はどう対応すべき?
企業は、詳細が不明確な「コンプライアンス違反」に直面した際、どのように対処すべきだろうか。
OECD(経済協力開発機構)のガイドラインは、企業の行動規範として、単なる法令違反だけでなく、社会的期待や倫理的責任を含む非強制的基準、すなわちソフトローとして設計されている。
OECDガイドラインの特筆すべき点は、行為の「違法性」そのものよりも、行為がもたらす「影響」と組織の「秩序維持」を重視する姿勢にある。
ガイドラインは企業に対し、有害な影響があった場合、証拠の強弱にかかわらず、組織として是正に努めるべきであると推奨している。企業が直接的な加害行為に関与していなくても、取引関係を通じて影響が生じた場合には、リスクを軽減し、関係者との対話を重ねることが求められる。
よって、国分氏の事案のように、詳細は不明でも複数の関係者からの証言が存在する場合、組織は「完全な否定ができない状況での措置」を講じることが適切だと考えられる。