日産が生き残るのに必要な他社との協業

 莫大な費用を必要とするEV、SDV開発に伴い、自動車業界は大変革期にある。トヨタ自動車は、トラックやバスなど商用車事業から距離を取り、乗用車の全方位戦略をより拡充する方針にかじを切った。半導体企業のエヌビディア、スタートアップのウェイモ(Googleの親会社であるAlphabet傘下の自動運転技術開発企業)などIT先端企業とのアライアンス体制を整備し、自前主義からの脱却に急いでいる。

 中国ではBYDや上海汽車が、国産半導体を100%搭載したクルマの量産化を急いでいる。今後、自動車とIT先端分野の結び付きはますます強くなるだろう。IT系企業が新車を開発し、台湾の鴻海精密工業などが主導して、自動車メーカーがEVやSDVの製造を受注する水平分業も増えるはずだ。

 米国では、トランプ関税の影響で自動車と部品のコストが上昇するとみられ、自動車メーカーの業績は悪化するだろう。国境あるいは業界をまたいだ自動車メーカーの再編、自動車メーカーとソフトウエア開発企業の提携が増えれば、新車開発の期間はより短くなるはずだ。そうなると日産を取り巻く環境はこれまで以上に厳しくなる。

 日産が本当に単独、自力で生き残れるかは、不安な点が多い。翻ってエスピノーサ氏は24年前に日産に入社し、組織や自動車業界を熟知した人物だ。経営者の重要な役割のひとつに、多様な利害を調整して、企業を長生きさせることが挙げられる。日産は現状のままでは、国内外7工場、2万人の削減だけでなく、追加リストラに陥る公算は大きい。

 今、エスピノーサ氏に求められることのひとつは、他社との協業ないしM&Aを真剣に検討することだろう。日産に必要なのは、売れるクルマを世に出すことに他ならない。それに必要な意思決定が遅れると、日産は一段と苦しくなり、再建はさらに難しくなる。エスピノーサ氏の英断に期待したい。