平等主義から個人主義へ
社会状況が反映されてきた音楽

 このような音楽やパフォーマンスの違いは、一般に音楽業界内の変化として語られがちであるが、実際はますます消費主義的な方向へと向かっていく社会状況を反映していた。たとえば、特定の楽器の使い方が持つ意味合いを考えてみよう。

 フォークのDIY的なエートスにおいて、ほぼ誰でも手に取ることができ、自分の歌の伴奏を行うことができるフォーク・ギターは、平等主義の象徴とされてきた。それとは対照的に、ニューミュージック系のシンガー・ソングライターによく使われたピアノは、音楽的訓練を必要とするだけでなく、20世紀の日本における「威信と洗練」の象徴でもあった。

 歌詞と緻密なサウンドという両面で、ニューミュージックは1970年代の都市部の若者の間で隆盛した、個人主義と豊かさというイメージをさりげなく伝えていたのである。

 日本社会は、その変化を熱烈に受け入れた。

 ニューミュージックは、しだいに先行するフォークや歌謡曲に取って代わり、1970年代後半において最も商業的に成功したポピュラー音楽ジャンルになった。歌謡曲業界もその人気を無視できず、その結果としてニューミュージック系のアーティストがプロのソングライターとして起用されるようになった。

 1960年代における多くのロックやフォーク・ミュージシャンと比較して、彼らははるかに歌謡曲業界とのコラボレーションに対して積極的だった。

 公然とした商業主義的志向は、もはや芸術的野心の障害とはならなかった。