写真を撮るように、瞬時に「絵」で覚える特殊能力

 モワッとした、温かいかたまりの存在を感じる……。それは脳が勝手に覚えてしまっていた「見たことのある顔」。ちょっと角度を変えるとSFやホラー映画になりそうだ。「これ、映像記憶っていうんです」

 あっ、それ聞いたことある。それができると、一般的な人よりもかなり多量の情報を記憶しておけるのだとか。

 たしか、英語でフォトグラフィックメモリーと呼ぶヤツだ。たとえば教科書を開くと、私のような凡人は文章を初めから順に追って、図版を見て、理屈で理解して覚えようとする(そして覚えられない)。それを、映像記憶能力の持ち主はバシャッとカメラで写真を撮るようにして記憶してしまう。するとテストの時にその写真を頭の中で呼び出し、あれは右ページの真ん中のあたりに書いてあったな、とページを拡大すると、その記述が見えてくるという仕組みだ。

 なんという特殊能力。めっちゃ便利じゃないか!ドラえもんの「暗記パン」みたいだけど、パンを食べる必要がない。私も学生の頃にその記憶力があったなら、もしかして東大とかも行けたのだろうか。

海外の犯罪捜査にも応用される、選ばれし者の特殊能力

 そのカメラマンさんはもともと映像で記憶できる人だから、写真芸術などのビジュアルアートの世界はとても向いているわけだ。「僕は学生の頃には全然うまく使えてなかったんですけれどね。ペーパーテストなんかでも、もっと有効に使うべきでした(笑)」と笑うカメラマンさん。「フォトグラフィックメモリーって欧米でよく聞きますよね」とたずねると、「一度写真を見て記憶すれば、街角の群衆の中からも犯罪者を正確に識別して捕まえることができるってことで、FBIなどの捜査機関でもその能力の持ち主が募集されたりするんですよ」と言う。

 確実に、特殊能力である。選ばれし者、という感じである。中年になって記憶力が一段と衰えた私などは、もう人の顔と名前がてんで覚えられなくて本当に困っているからうらやましい限り。あっ、もしかして私にはみんな同じ顔に見えるアイドルグループのメンバーなんかも、彼はきっと全員個別認識しておけるのだろうか。つくづく便利だなぁ。