でも、“覚えすぎてしまう”のも困りものだ。意識していなくても顔を覚えてしまうというのだから、頭の中にものすごくたくさんの顔が記憶されているわけだけれど、それらを全て忘れられず、いちいち反応してしまうのもなかなか大変なのではなかろうか。最寄り駅前なんて、知っている顔ばかりでモワッと温かいのがいっぱいいて、夏なんか暑苦しくないだろうか。

街なかで、芸能人をすぐ見つけてしまう

 そう聞くと、カメラマンさんは「いやほんと、この記憶のせいで、知らなくてもいいことを知ってしまうんですよ」とぼやいた。

 カメラマンさんは、やはり人が多すぎる場所はあまり得意ではなくて、東京ではない、とある風光明媚な地方都市に住んでいる。映画やドラマの地方ロケにもひんぱんに使われる街だ。すると、ロケに来ている芸能人がお忍びで夜の街に繰り出しているのを百発百中で見つけてしまうのだとか。

 私は尋ねる。「でも、芸能人って普段は帽子やマスクやサングラスで変装したり、オーラを消したり、人混みに隠れるのがすごく上手じゃないですか。私なんて、街で一緒に歩いている友達が『あっタレントの○○だ』ってすぐ見つけても、マスクなんかされていたらまったくわからないんですよ。よーく見てみても『あれがそうなの?ふーん』って全然ピンとこなくて、我ながら“目が節穴”なんです」

 するとさすが特殊能力者のカメラマンさん、「僕、たぶん顔だけじゃなくて体つきの輪郭や全体の雰囲気も記憶しているみたいで、だから隠していてもピンときちゃうんです」

 性能のいいAIの顔認証みたいな記憶能力なので、一部が隠れていても他の輪郭が一致すると反応する。そのため彼は、某有名女優の再婚は彼女が週刊誌にとらえられる前からずっと知っていたのだそうだ。