従業員による絵本の寄贈が“癒やし”をもたらす

 ビルの10階と11階にある、弥生の大阪オフィスには、現在、約300人の従業員が在籍し、その8割ほどがカスタマーセンターの業務に従事している。そして、上階(11階)のオフィスに隣接した場所に、見晴らしと採光の優れた「リフレッシュルーム」があり、畳敷のスペースのほか、ゆったりしたソファやマッサージチェアが置かれるなど、多くの従業員が休息できる空間が広がっている。

「子ども図書館」は、そのリフレッシュルームの一角にあった。小児科や歯科医院の待合室のように、木製ラックに、絵本や本がたくさん収められている。

 誰もが利用できるリフレッシュルームの中に絵本があること――森嶋さんが、その意図を説明してくれた。

「カスタマーセンターの業務は、ストレスを感じることも多く、視覚メッセージのある絵本に触れることで、心がリラックスし、活力につながると思います。子ども図書館は、私たちのちょっとした“癒やし空間”になっています」

 もちろん、子育て中の従業員が絵本を自宅に持ち帰り、子どもと読んだ後に返すという“図書館的な利用”がメインだが、リフレッシュルームにある「子ども図書館」は、オフィスで働く人の誰にとっても有用のようだ。

「子ども図書館」に所蔵された絵本を手に取りながら、森嶋さんが言葉を続ける。

「ここの本は、会社の予算で買っているのではなく、従業員からの寄贈というかたちをとっています。本を通じた従業員同士のつながりを大切にしたいからです。絵本にはお子さんのお名前が書いてあったり、ページが破れているものもあったり……それが、またいいですね。温かみがあって、みんなの癒やしにつながると思います」

 あらゆるメディアのデジタル化とともに、街なかの書店や公共図書館の登録者数が減りつつあるなか(*4)、森嶋さんは本の価値を強く感じ、「絵本の持つ力は、本当にすごいです」と目を輝かせる。

*4 「日本の図書館統計(日本図書館協会)」によれば、公共図書館の登録者数は、2020年をピークに漸減傾向にある。

「子ども図書館」の設営にあたっては、会社の認可を得るなど、然るべき手順を踏んでいった。そのうえで、「子ども図書館」の存在を、社内報やオウンドメディアで積極的に告知しているのは、絵本の魅力を、子育てや仕事に奮闘する従業員に知ってもらいたいからだ。