ジェローム・パウエルFRB議長Photo:Natalie Behring/gettyimages

米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は8月22日のジャクソンホール経済政策シンポジウムにおいて、利下げ再開に半歩の前進を示した。政策金利の据え置きが続いてきた米国の金融政策運営は一つの節目を迎えそうである。政策面を含めた米国経済を展望した上で、金融政策運営の見通しに関して論じたい。(SMBC日興証券チーフマーケットエコノミスト 丸山義正)

米国経済は一見高成長も既に失速
駆け込み輸入の反動でかさ上げ

 米国の2025年4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、潜在ペースと考えられる年率2%弱を超える前期比年率3.0%に達した。米国経済は一見好調だ。

 しかし、4~6月期の高い成長は、前1~3月期がトランプ関税賦課前の駆け込み輸入急増によって前期比年率マイナス0.5%と落ち込んだ反動に過ぎない。国内で産出されない輸入はGDPから控除されるため、増加は成長率を計算上押し下げる。駆け込みの反動で4~6月期に輸入は急減、成長率が高まった格好だ。

 経済成長の基調を示すとして、FOMC(米連邦公開市場委員会)参加者が注目し、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長がFOMC後の記者会見において頻繁に言及する「民間最終需要」の伸びは、4~6月期に前期比年率1.2%まで低下している。米国経済は失速していると判断できる。

米経済はトランプ就任前の減速要因に
トランプ政策が追い打ち

 米国経済の失速は、ドナルド・トランプ大統領就任の前夜から始まった要因と、トランプ大統領の政策運営によって複合的にもたらされている。成長率低下の根底には、当然だがインフレ沈静化を目指した抑制的な金融政策運営がある。

 23年まで顕著なペースで進んでいた移民流入は、大統領選挙が行われていた24年から細り、成長ペースの鈍化につながった。株価は上昇を続けるも、高金利などを受けて住宅市場が調整局面に入り、住宅価格は下落に転じた。資産効果は徐々に損なわれている。そしてコロナ禍に伴う“徳政令”によって先送りされてきた学生ローン問題が25年に入り顕在化した。

 こうしたベースとして存在した景気減速の動きに、トランプ大統領の政策が追い打ちをかけている。