エネルギー動乱Photo by Tohru Sasaki

世界的に需要が拡大するLNG(液化天然ガス)のプラントを建設できるエンジニアリング会社は国内大手の日揮ホールディングス(HD)や千代田化工建設など世界でも4社ほどしかないとされる。ところが、近年のインフレや人件費の高騰などで、EPC(設計、調達、建設)と呼ばれるプラント建設の一括請負業務が大きなリスクにさらされている。LNGプロジェクトの活発化とEPCビジネスのリスク上昇などエンジニアリング業界の経営環境が激変する中、日揮HDはどうかじを切っていくのか。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、日揮HDの佐藤雅之会長兼社長CEOを直撃。25年3月期まで2期連続で赤字に陥った要因分析とその巻き返し策に加え、LNGプロジェクトの今後の方針、EPCに代わる新たな収益源をどう育てていくか明らかにしてもらった。(聞き手/エネルギージャーナリスト 宗 敦司)

海外LNGのターゲットは米国以外
アラスカLNGには慎重に対応

――米国をはじめLNG(液化天然ガス)プロジェクトがグローバルで相次いで進んでいます。現状をどう見ていますか。

 世界のエネルギー需要は人口増加に加え、AI(人工知能)やデータセンターの電力需要増加により引き続き拡大します。その中で安定供給性、手頃な価格、CO2排出度、この三つの要素を勘案するとLNGは今後も相当期間拡大すると思います。LNGはデスティネーション・エネルギー(CO2排出削減への最終目的のエネルギー)だと言う人もいますし、英エネルギー大手、シェルもLNGアウトルック2025でLNG需要を2024年の年間4億トンから2040年には60%増加すると予測しています。

 しかし、世界的にLNGのEPC(設計・調達・建設)を遂行できるエンジニアリング企業は限られています。当社もその一角として、パーパスである“エンハンシング プラネタリー ヘルス(地球環境の健康を高める)”に基づいて、LNGビジネスは社会的使命と考え、EPCの重要分野として引き続き取り組んでいきます。

――米国のLNGプロジェクトが特に多いですが、日本勢はあまり関与していません。

 現在、当社が米国で受注を予定している案件はありません。米国以外でFEED(初期段階の基本設計)から取り組んでいる案件が複数あるので、社内リソースの観点からもそちらを優先するつもりです。

 米国の案件は増設案件が多く、既存設備を遂行したエンジニアリング企業が引き受けることが多いので当社の受注機会はあまりないとみています。また米国で大型の案件をやるとなると、LNGに限らず建設工事にリスクがあるので、しっかりとした建設会社と組まないといけません。

 また労賃も高いという問題に加え、最近では関税の引き上げで、コストがどう上がってくるか読めないという懸念もあります。日本で関心が高まっているアラスカLNGについても、エネルギー安全保障という観点で重要な案件と理解していますが、当社としては状況を注視しているような段階です。

――米国以外のLNG案件の状況は。

 アフリカのフローティングLNG(浮体式LNG=FLNG)は先行業務を確保しました。またモザンビークの陸上LNGで基本設計業務を進めていますが、投資決定はまだ先でしょう。インドネシアのアバディLNGではFEED役務を受注。あとはパプアニューギニアの増設案件が来年以降のEPC受注を期待しています。

 FEEDについては、LNGカナダで年産1400万トンから2800万トンへの拡張計画で基本設計のアップデートとEPCに関わる見積もりをやっています。これらが近々受注可能性のある案件と期待しています。

――25年3月期まで2期連続赤字となりました。その要因と、対応についてお聞かせください。

次ページでは、佐藤雅之会長兼社長CEOが、2期連続で赤字に陥った要因を解説する。実は、昨期と一昨期では要因は異なっているという。何が原因だったのか。また、赤字を防ぐために、取り入れた「三つの策」についても説明する。一方、世界的に、EPCビジネスの持続可能性が危ぶまれる中、エンジニアリング企業としてどのように対処していくのかについても明かしてもらう。EPCへの傾倒を避けるために、今後国内で手掛ける事業やプロジェクトの方向性や重点領域についても佐藤氏に語ってもらった。