エネルギー動乱Photo:John Moore/gettyimages

三菱商事の国内3海域での洋上風力事業からの撤退で、洋上風力発電ビジネスの将来に暗雲が垂れ込めている。「ダンピング入札」とも評された政府公募の第1ラウンドの制度設計の失敗は、第2、第3ラウンドにまで影を落とし、産業ビジョンそのものを揺るがしている。しかし世界に目を転じれば、欧州は柔軟な制度修正で市場を維持し、米国は政治リスクを抱えつつも巨大需要を背景に再エネ投資をつなぎとめている。なぜ、日本が「撤退ドミノ」に追い込まれる可能性が高いのか。日本が掲げる「脱炭素と経済成長」を両立させる切り札だった洋上風力が再生する道はあるのか。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、欧州などとの比較から日本の制度再構築の課題と復活に向けた”4つのカギ”を解説する。(エネルギー政策研究所長 山家公雄)

三菱商事の「非現実な落札価格」
制度硬直が生んだ撤退ドミノ危機

 2021年の政府の洋上風力発電の公募第1ラウンド(R1)で三菱商事グループが秋田県と千葉県の3海域を総取りしたとき、業界関係者は「実現性に欠ける」と口をそろえた。落札価格は平均キロワット時当たり13.39円。FIT制度下で設定された上限29円を大きく下回り、当時の発電コスト(25~29円)からみれば完全に「赤字覚悟」の水準だった。「欧州の水準を踏まえた」との説明だったが、当時内外価格差は1.9であり、風況で見劣りすることも考えれば、日本の黎明(れいめい)期にその価格が成り立つはずはなかった。

 結果は予想通りだった。資材インフレや円安が直撃し、建設費は当初見積もりの2倍以上に膨らむ。政府は事実上の救済措置として固定価格買い取り(FIT)制度(編集部注:再エネで発電した電力を大手電力会社が20年間買い取ることを政府が約束する制度)から、市場連動型(FIP)制度(同:発電事業者が再エネで発電した電力を発電量と需要を調整しながら自ら売電先を選べる制度)への転換を認める方針を決めたが、三菱商事は25年8月に撤退を表明した。保証金200億円が没収され、プロジェクトは頓挫した。

 問題はR1の失敗がその後の制度設計に反映されなかったことだ。第2、第3ラウンドでは入札上限価格をさらに引き下げ、R2で19円、R3で18円に設定。結果として「ゼロプレミアム(3円)」、すなわち補助金なしの事業が前提となり、まだサプライチェーンが未整備の国内では事実上不可能な条件が突き付けられた。R1の「非現実的な低価格」を実力と誤認した制度硬直が、撤退ドミノの危機を招く構造をつくってしまったのである。

 では撤退ドミノを防ぐには、どうすればいいのか。洋上風力の復活には、四つのカギが存在する。洋上風力で先行する欧州を例に、課題と復活のカギを次ページで明らかにしていく。