
三菱商事による国内3海域の洋上風力発電事業からの撤退で、草創期にある日本の洋上風力産業は消滅の危機にひんしている。現在の入札制度のままでは、三菱商事が3海域を“総取り”した政府公募のコンペ第1弾(第1ラウンド)に続き、後続計画まで撤退ドミノに陥る危険性もある。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、三菱商事と政府の責任を指摘した上で、制度自体の問題がどこにあったのかを探っていく。深刻な危機を乗り越えるには、現実的にどのような対策が必要なのか。(エネルギー政策研究所長 山家公雄)
「ダンピング」で無理筋の計画に
後出し救済で問題が深刻化
日本の洋上風力発電が制度崩壊の危機に直面している。最大の要因は、2021年に政府が公募したコンペ第1弾(第1ラウンド)である。三菱商事グループは秋田県沖と千葉県沖の3海域を総取りし、1キロワット時当たり12~16.5円という破格の低価格で落札した。
だが、世界の現在の「均等化発電原価(LCOE、編集部注:発電設備の総費用を総発電電力量で割って1キロワット時当たりのコストを示す指標)」は30円を上回る。筆者の試算でも同水準であり、この価格が現実的でないことは当初から明白だった。
この「ダンピング」を認めたのは入札審査委員会である。委員長は公益事業が専門の学者で、エネルギー分野の知見は十分ではないとされる。経済産業省と国土交通省による洋上風力の合同会議や再生可能エネルギー制度の検討会も同様に、事業実態や国際常識を理解していない委員が目立った。こうして日本の洋上風力は、制度設計の段階で無理筋の計画を抱え込むことになったのだ。
さらに問題を深刻化させたのは「後出し救済」である。資材インフレと円安で採算が崩れると、三菱商事は固定価格買い取り(FIT)制度(編集部注:再エネで発電した電力について、大手電力会社が固定価格で20年間買い取ることを政府が約束する制度)から市場連動型(FIP)制度(発電事業者が再エネで発電した電力を発電量と需要を調整しながら自ら売電先を選べる制度)への転換を政府に要請した。
当初政府は拒否したといわれるが、今年3月に制度改正案を公表し、容認に転じた経緯がある。にもかかわらず、三菱商事は8月に撤退を決断した。政府にすれば裏切りに等しいが、制度を安易に変更した国の責任もまた重いと言わざるを得ない。三菱商事の撤退で本格始動の前につまずいた洋上風力産業。日本に根付かせるために講じられる現実策とは。次ページで具体的な方策を探る。