中国の追い上げによる日本への影響は?

 中国半導体企業の成長スピードは、多くの専門家の想定を上回っている。GPUの設計開発を行うカンブリコン、AI半導体の開発体制を持つアリババ、ディープシークなどAI開発企業は、投資や研究開発体制を急速に引き上げている。

 今後、想定されるのは大企業同士の連携や経営統合だろう。すでにHBM生産に取り組むメモリー半導体大手の長江存儲科技(YMTC)と、長鑫存儲技術(CXMT)の提携が報じられた。中国政府は両社を経営統合し、世界トップのシェアを持つ企業に育てようとするだろう。

 一方、エヌビディアのフアンCEOは、「米国の対中半導体・AI規制は失敗だ」と指摘した。同氏は、「いずれ中国の安価なAI、半導体、関連装置、部材は海外市場を席捲する」とみている。これは見逃せない点だ。EV(電気自動車)のように、半導体分野でも対応が遅れると、わが国の企業が関連分野でシェアを失うリスクは高い。

 わが国にとって、中国の半導体産業の成長は脅威である。今のところ日本の半導体製造装置・部材メーカーの競争力は高いが、それが長期間続く保証はない。

 中国が純度の高い半導体部材のサプライチェーンを内製化すると、日本の半導体関連企業の競争力は低下するだろう。それは、回路線幅2ナノメートルのチップ量産を目指すラピダスおよびサプライヤーの行く末に関わる。わが国の経済安全保障、さらには世界経済における地位にも影響が及ぶ。

 日本企業の優位性が保たれている間、そのメリットを使って世界の供給網の中で存在感を向上できるのか。実現には、迅速に先端のチップ製造能力、関連産業を成長させることが必要だ。ラピダスは関連企業や金融機関と協力し、積極的に研究開発や生産能力向上を実現しなければならない。

 ファーウェイの研究開発費は年間3.6兆円で、関連分野への投資ファンドも設定している。翻ってトヨタ自動車は同1兆3700億円だ。民間企業のリスクテイクをサポートするための公的支援の拡充も急務である。そうした取り組みが遅れると、わが国が半導体産業の再興を目指すことは難しくなるだろう。今はまさにチャンスとピンチが同時にやってきている状況なのだ。