高市新政権の財政健全化目標「対GDP純債務比率」の危うさ、くすぶるインフレ増税と円高反転リスクPhoto:PIXTA

高市新政権は、財政健全化目標として対GDP政府純債務比率を掲げる。日本の対GDP政府純債務比率は低下しているが、その裏には円安と株高による政府保有資産の「資産効果」がある。円安継続ならインフレタックスの増加、円高反転なら資産効果消失による債務比率上昇というリスクを抱える。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)

政府純債務残高を目標として
掲げる高市政権

 10月21日、参議院こそ決選投票となったものの、衆議院本会議1回目の投票で過半数を獲得した高市早苗氏が第104代首相に選出された。

 自民党総裁選において敗れた他の候補が閣僚入り(小林鷹之氏は党政調会長)するなど、挙党体制を強く意識させる人事も発表されたが、他方、高市氏は「責任ある積極財政」と銘打ちながらも、結局、一定程度の財政拡張を行う方針も示している。

 10月4日の自民党総裁選の結果を受けて、高市新首相による財政拡張などを意識しながら既に円安が進んできたが、ドル円はいったん153円台でピークアウトしており、高市新政権の今後の財政・金融政策に注目する時間帯となっている。

 首相に選出された後の高市氏の「金融政策の手法は日銀に委ねられるべきもの」との発言は、過去の同氏の発言との対比からも市場に安心感を提供するものであった。

 他方、財政については、財務省出身でありながらも過去の安倍政権で重用され、23年には清和政策研究会(安倍派)に入会した片山さつき氏が財務相に任命されただけに、アベノミクス的な財政拡張への懸念が払拭されない。

 アベノミクスについては、当時、デフレ経済への処方箋として講じられており、今次、インフレの下で同様の政策が採られれば、制御不能のインフレを介して通貨毀損への懸念が一層強まる可能性が高い。

 高市氏の「赤字国債の増発もやむを得ない」との過去の発言も撤回されたわけではなく、また、高市新首相が財政健全化の目標として「純債務残高」を提起している点も過去の為政者に見られなかったものであることから、インフレ加速や長期金利急騰、そして悪い円安への懸念は容易には弱まらないと予想される。

 次ページでは、高市氏が注目をする我が国の純債務残高について検証する。