美香は共感する表情を見せながらも、明確に店のポリシーを伝えた。「お気持ちはよくわかります。ですが人手不足もありまして、このシステムを導入することで、良い料理をリーズナブルな価格で提供し続けられるんです。紙のメニューはご用意していないのですが、注文のしかたをお手伝いいたしますよ」。

「でも私、こういうの苦手なのよ」。白川は不満げに言った。

「一度やってみましょう」。美香は優しく促した。

 白川はためらいながらもバッグからスマートフォンを取り出した。美香は根気強く説明し、QRコードの読み取り方から注文方法まで、一つひとつ教えた。白川は美香の指示に従い、なんとか最初の注文を完了させた。

「やってみると、そんなに難しくないでしょう?」。美香は笑顔で言った。「次回からは、ご自身でできるようになりますよ」。

「まあ、やればできるものね」。白川は少し誇らしげに言った。

「高齢者は来るなってこと?」
「長年通ってるのに」と不満爆発

 美香はカウンターに戻り、注文の確認をした。店内は徐々に混み始めた。

 しばらくして、白川は追加で注文しようと思ったが、美香と翔太は他の客の対応で忙しそうだった。白川は再びQRコードを読み取ろうとしたが、うまくいかない。

「もう、こんなの無理よ」。白川はイライラし始めた。手を挙げて店員を呼ぼうとしたが、なかなか気づいてもらえない。

 ようやく山田翔太が気づいてテーブルに駆け寄った。「お呼びでしょうか?」。

「追加で注文したいんだけど、このQRコードがうまく読み取れないのよ」。白川は不満げに言った。

「お手伝いしましょうか」。翔太は丁寧に言った。

「いいえ、あなたがやって」。白川はスマートフォンを翔太に押しつけた。

 翔太は丁寧に、しかし毅然とした態度で答えた。「申し訳ございませんが、私たちはお客さまのスマートフォンを直接操作することはできないんです。個人情報保護の観点からも、お客さまご自身で操作していただく必要がございます。ただ、私がそばでお手伝いすることはできますよ」。

「何よ、それじゃあどうすればいいの?」。白川の声は大きくなった。「長年通っているのにこんな扱いを受けるなんて。高齢者は来るなということ?」。