ベストセラー『日本人の英語』から25年。日本人が書く英語が、確認不足によるささいなミスのせいでネイティブに通じないケース指摘し、「もったいない」と訴え続けてきたマーク・ピーターセン氏が『実践 日本人の英語』(岩波新書)を上梓した。日本人の英語はなぜダメなのか? 最新作のエッセンスを、英語でのインタビューを本業とするジャーナリストの大野和基氏が聞く。
アメリカ人の多くは非ネイティブが
言いたいことを察してはくれない
(Mark Petersen)
アメリカ・ウィスコンシン州出身。コロラド大学で英米文学、ワシントン大学大学院で近代日本文学を専攻。1980年フルブライト留学生として来日、東京工業大学にて「正宗白鳥」を研究。現在、明治大学政治経済学部教授。著書に、『日本人の英語』 『続 日本人の英語』 『心にとどく英語』(以上、岩波新書)、『英語の壁』(文春新書)、『日本人が誤解する英語』『マーク・ピーターセンの英語のツボ』(以上、光文社知恵の森文庫)、『表現のための実践ロイヤル英文法』(共著、旺文社)ほか。
――今回、『実践 日本人の英語』(岩波新書)を出版されました。最初に『日本人の英語』を出されたのは1988年ですから、あれから25年たちました。『実践 日本人の英語』の第11章<脱・カタコト英語>(「大人の」英語表現)に、<本人は頭がいいのに、書いた文章が極めて「子どもっぽい」というミスマッチにびっくりすることが多い>と書かれています。私は仕事上英語でインタビューすることが多いのですが、相手は日本語や日本人英語のことはまったく知らないことが多い。そういうときにカタコト英語を使うと、<この人の頭は大丈夫か>と思われますよね。
外国語を覚えるのがどれほど大変かわかっているアメリカ人もいますが、そうでないアメリカ人は、とかく英語ができて当然だと思いがちです。それは残念なことですが、現実です。とりわけ英文を書くときに、日本人がただ単に注意不足で初歩的な間違いをして、悪い印象を与えてしまうケースがよくあります。非常にもったいないことだと思います。
――例えば、「犬が好き」と言うつもりで“I like dog.”と言うと、相手のネイティブの人は「犬の肉を食べるのか」と思いますから、かなりいやな顔をしますね。
そう、ちょっとしたことで、いやな印象を与えてしまいます。dogsと複数形にすればきちんと通じるのに、もったいないことです。ちょっと意識すればそういう印象を与えなくて済むのです。
“I like dog.”の dog のように、単数形の名詞の前にaやtheの冠詞など何の限定詞もないと、それは必然的に「数えられないもの」を表すことになってしまいます。これに関しては意識がほとんどないようです。数えられないdogと言えば、素材として意識される「犬肉」しかないのです。