BCG泥沼訴訟 丸投げリストラの全内幕Photo by Yoshihisa Wada

アパレル大手TSIホールディングス(HD)は、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の助言を基に大規模なリストラを進めてきた。だがその途上、リストラ案の法的リスクを指摘した法務課長が、自らも退職勧奨の対象とされ、「退職強要に当たる」としてTSIとBCGを東京地裁に提訴したことを第1回で報じた。長期連載『コンサル大解剖』内の特集『BCG泥沼訴訟 丸投げリストラの全内幕』第2回の本稿では、リストラ事件に詳しい東京法律事務所の笹山尚人弁護士に、TSIのリストラがどこに違法性を内包し得るのか、そしてリストラ案を設計したBCGに共同不法行為者としての法的責任が及ぶ可能性について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

社会的相当性を逸脱したかが焦点
共同不法行為での提訴は極めて異例

――企業が実施する退職勧奨が違法になるのは、どのようなケースですか。

 退職勧奨は、労働者が辞職を申し出る自由と同様に、企業側が退職を求める行為そのものは適法とされています。

 問題となるのは、形式は退職勧奨であっても、実質的には労働者に退職を強いて解雇と変わらない状況に追い込んでいる場合です。裁判所は、その行為が社会的相当性を逸脱しているかどうかで違法性を判断します。

 象徴的な裁判例が、昭和55年の下関商業高校事件です。高校教員が退職勧奨に応じない意思を示していたにもかかわらず、10回以上にわたり面談が繰り返されました。退職の意思を示すまで終わらない形で迫った点が社会的相当性を逸脱した退職勧奨と認められ、違法と判断されました。

 その後の裁判例でも、面談の回数や期間、言動の強さ、退職を拒否した際の扱いなどを総合的に見て、労働者に過度な精神的負担を与えていないかどうかが判断されています。

 特に、短期間に面談を重ねたり、退職しない意思を明確に伝えているにもかかわらず説得を続けたりするケースは、社会的相当性を逸脱した退職勧奨として違法性が認められやすい傾向にあります。

――今回のTSIのケースでは、リストラ案の法的リスクを指摘した法務課長自身が退職勧奨の対象とされ、退職強要に当たるとしてTSIに加え、制度設計を担ったボストン・コンサルティング・グループ(BCG)を東京地裁に提訴しています。退職勧奨の訴訟で、リストラ案を助言した企業まで法的責任を問われた事例はあるのでしょうか。

 私の知る限り、退職勧奨の訴訟では似たような事例も含めて聞いたことがありません。

――今回のTSIのリストラ訴訟で、BCGが違法と判断される可能性はありますか。

次ページでは、BCGに共同不法行為者としての法的責任が生じ得るのかを掘り下げる。TSIが管理職に共有していた退職勧奨面談の想定問答集について、笹山弁護士は「極めて不適切」と強く指摘した。その具体的な内容を公開し、問題点を詳しく聞いた。