ベイカレント 爆速成長の罠Photo:Zolnierek/gettyimages

2017年にITコンサルティング会社のフューチャーが、営業秘密を不正に入手したとしてベイカレントと、元フューチャー子会社役員で当時ベイカレントの従業員だった男性を相手に民事訴訟を提起した。18年には警視庁が不正競争防止法違反の疑いで男性を逮捕し、刑事事件に発展した。有力なコンサル会社同士の営業秘密漏洩(ろうえい)事件として当時大きな注目を集めたものの、事件の詳細はベールに包まれてきた。ダイヤモンド編集部は今回、19年の刑事事件の一審判決の判決文を入手した。長期連載『コンサル大解剖』の特集「ベイカレント 爆速成長の罠」の本稿では、ベイカレント元従業員による営業秘密漏洩事件の全容を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 山本 輝)

ベイカレントとフューチャーが法廷闘争
東京地裁は営業秘密の不正取得を認定

「偶発債務 訴訟等」。ベイカレントが2025年5月28日に関東財務局長に提出した24年度の有価証券報告書には、ベイカレントに対する損害賠償を求めて提起された民事訴訟の存在が明記されている。ベイカレントは「当社の法律顧問の見解を踏まえた上で、現時点で当社に対する請求が認められることは考えておりません」と見解を示している。

 その民事訴訟は、ITコンサルティングなどを手掛けるフューチャーによって提起されたものだ。「ベイカレント・コンサルティング及び当社元従業員に対する訴訟の提起について」――。フューチャーが、そう題したリリースを公開したのが17年8月。ベイカレント・コンサルティング(現ベイカレント)と、元フューチャー子会社役員でベイカレント元従業員の男性に対し、不正に営業秘密を入手したとして損害賠償などを求める訴訟を起こしたと明らかにしたのだ。

 当時の資料によると、ベイカレントは16年、フューチャー子会社のフューチャーアーキテクト(以下FA)執行役員の男性と雇用契約を締結。男性は職務上付与されたアクセス権限を悪用し、FAの営業秘密を不正に取得したとされる。フューチャーが両者に求めた損害賠償額は計1億6500万円。これに対し、ベイカレントも「法に抵触する行為は行っていない」と真っ向から反論した。

 18年3月には、警視庁が不正競争防止法違反の疑いで男性を逮捕し、刑事事件へと発展する。有力なコンサル企業同士の機密情報の流出を巡るスキャンダル――。当時ベイカレントは上場を果たしたばかりということもあり、事件は業界内で大きな話題となった。その後、19年3月、東京地方裁判所は男性の不正を認定し、懲役1年(執行猶予3年)、罰金50万円の判決を言い渡した。

 刑事事件は終結したものの、民事訴訟はまだ継続している。冒頭で紹介したように、ベイカレントは毎年提出している有価証券報告書で、民事訴訟についての見解を記載し続けている。ただし、事件の中身については、報道やリリースなどから断片的には判明しているものの、事件の性質もあり、詳細は明らかになっていない部分も多い。

 今回、ダイヤモンド編集部は刑事事件の一審判決の判決文を入手した。その中では、男性がFAの営業秘密を入手した細かい手口や、ベイカレント側の当時の社員との生々しいやりとりなどが事細かに明かされている。刑事事件では男性のみが裁かれることになったが、漏洩事件にはベイカレント側でも営業担当者や人事担当者ら複数の社員が絡んでいたことがうかがえる。次ページでは、判決文での事実認定を基に事件の全容を明らかにしていく。