現役音楽隊員が語る
「私たちにしかできないこと」

 音楽隊員が「私たちにしかできないこと」と語る真価が最も発揮されたのは、2011年3月11日に起こった東日本大震災だった。未曾有の災害に際し、自衛隊は10万人規模の部隊を投入し、救助活動にあたった。音楽隊も瓦礫の撤去や物資運搬などに従事した。その中で、音楽隊もまた重要な役割を果たした。

 音楽隊は避難所や駐屯地、艦艇などで慰問演奏を行った。人命救助や復旧作業とは異なる、しかし決して軽くはない任務だ。被災して心に深い傷を負った人々にとって、音楽は大きな慰めとなった。また、過酷な救助活動を続ける隊員たちの士気を高める役割も担った。

「行方不明者の捜索が続く中で、演奏をしていいのだろうか? そう思った隊員もいたようです。ですが、アニメソングで笑顔を取り戻した子どもたち、『赤とんぼ』を聴きながら咽び泣く声、『世界に一つだけの花』で目を見開いてリズムをとる姿。どれも忘れることができません。あの時ほど音楽の力を感じたことはなく、音楽隊員であることを誇りに思ったことはありません」

 震災発生後の3カ月間で音楽隊が行った演奏は、陸自(388回)、海自(21回)、空自(54回)と計464回に達するという。

 ここに、音楽隊の究極の役割が見えてくる。それは「心の安全保障」だ。物理的な安全保障、つまり国土と国民の生命財産を守ることは自衛隊の本来の任務だ。しかし音楽隊が担うのは、それとは異なる次元の安全保障である。人々の心を癒し、希望を与え、社会の絆を強め、海外とも交流する。これもまた、国民の安全と平和に不可欠な要素なのだ。

 全国32カ所の音楽隊は国民と自衛隊をつなぐ「音の架け橋」として、全国での演奏会や学校での演奏指導などを行っている。自衛隊が持つ音楽の力を感じてほしい。