これから消える職業
未来にも残る職業

為末第一回のときもお話しましたが、僕は職業を夢にするより、その奥にある思いを大切にしたほうがいいと考えています。職業をゴールにすると、その職業に就けなかったり転職せざるを得なくなったときに苦しくなるからです。

 「がんばれば夢はかなう」ってことは、夢がかなわなかったらがんばってないのか、ってことになりますよね。「自分はサッカーが好きだから、もっと多くの人にサッカーを知ってもらいたい」という思いに気づけば、そのサッカー関連の仕事は数多くあるはずです。

 そもそも論ですが、何か特定の職業に憧れても、時代の移り変わりによって、自分の努力とは関係なくその職業自体が消えてなくなるおそれもあります。

 松田さんから見て、これから残る職業はどのようなものだと思いますか。

松田 人間が介在しなければいけない仕事は残るでしょうね。たとえばサービス産業。とくに接客業などは、コンピュータではなかなか代替することが難しいと思います。あと、新しいものをつくっていく仕事もコンピュータにはまだ難しいでしょうね。

夢を語れない大人が、<br />夢が持てない子どもを増やしている!為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。2001年エドモントン世界選手権で、男子400mハードル日本人初となる銅メダルを獲得。さらに、2005年ヘルシンキ世界選手権でも銅メダルと、トラック種目で初めて日本人が世界大会で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3大会に出場。“侍ハードラー“の異名を持つトップアスリート。2003年に大阪ガスを退社し、プロに転向。2012年6月、大阪で行われた日本陸上競技選手権大会を最後に、25年間の現役生活に終止符を打った。Twitterフォロワー16万を超え「知的に語れるアスリート」として、言動にも注目が集まる。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリートソサエティ」を設立。現在、代表理事を務めている。著書は、『走りながら考える』(ダイヤモンド社)、『諦める力』(プレジデント社)、『負けを生かす技術』(朝日新聞出版)等多数。

為末 その点でいうと、先生という職業はどうですか。人と接する職業ですよね。

松田 教育分野はIT化がいろいろ進んでいます。オンラインや動画を活用して学習ができたり、最近はスカイプを使った英会話教室も人気です。ただ、コンピュータを利用した教育も、どこかで必ず「人」が介在しています。ITはあくまでもツールに過ぎず、すべてをITに頼ることはできない。その意味で、時代がどう変わっても先生という職業はなくならないと思います。

夢について教師が語れないのは、
仕事が忙しすぎて余裕がないから。

為末 そうすると、教育にITはあまり必要がないんでしょうか。

松田 いや、そこは逆だと思います。じつは学校の先生は、世間で考えられている以上の大量の仕事を抱えています。そのせいで本当に大事なところに時間を割けなかったり、モチベーションが下がったりしている。だからITの力を借りて、効率化できるところはどんどん効率化すればいいと思います。

為末 仕事量は確かに多そうですね。日本では、部活で生徒を指導するのも先生の仕事ですから。

松田 僕も高校教師時代は陸上部の顧問をしていました。朝練を見るので、出勤は朝7時。放課後も練習を見たり授業の準備をしていると、あっという間に10時ごろになってしまいます。僕は若くて体力があったので平気でしたが……。

為末 たしかにそれだと心に余裕を持てないでしょうね。でも、その状態は子どもにとってもよくない。

松田 はい。だからITで効率化しつつ、人が重要になってくる部分に先生のリソースを集中できるようになれば理想です。そうなると、たとえばいじめの問題をじっくり話し合ったり、今日のテーマである夢について生徒と一緒に考えることもできるのではないかと。