コスト基準から価値基準へ
価格は「戦略」であり「心理設計」

 価格は、単に企業の利益を決める数字ではありません。それは「誰に、どんな価値を、どんな認識で届けるか」を顧客に伝える、戦略的なコミュニケーションツールです。価格設定の思想は、大きく3つに分類できます。

1. Cost-Based(コストベース)

 製造原価や開発費に一定の利益率を上乗せする、最も古典的な方法。計算が単純で分かりやすい反面、顧客が製品から得られる価値を完全に無視している。

2. Competitor-Based(競合ベース)

 競合他社の価格より少し高く、あるいは安く設定する方法。市場から大きく外れない安心感はあるが、自社の独自価値を価格に反映できず、消耗戦に陥りやすい。

3. Value-Based(価値ベース)

 顧客がプロダクトから得る価値を基準に価格を決定する方法。例えば「ツールを使えば月100万円のコストを削減できる」なら、その価値の一部を価格として設定する。これこそがプロダクト思考の核心であり、顧客との長期的で健全な関係を築く上での揺るぎない出発点となる。

 この「顧客がプロダクトから得る価値」を定量的に捉え、チームが向かうべき方角を示す指標こそ、本連載で以前解説したNSM(北極星指標)やKPI(重要業績評価指標)です。

 こうした価格設定は、行動経済学の知見を応用した「心理設計」でもあります。

 多くのSaaSが採用する3段階の料金表では、最も高価なエンタープライズプランを「アンカー(錨)」として提示することで、中間価格のビジネスプランを割安で魅力的に見せる効果を狙っています。また、基本的な機能を無料で提供し、より高度な機能やサービスを有料で提供するフリーミアムプランでは、利用のハードルを下げ、体験を通じて価値を深く実感してもらうことで、有料プランへの移行を自然に促します。