典型的なBtoB SaaSプロダクトにおけるジャーニーは、以下のように段階的に捉えることができます。
1. 個人利用(Prosumer)
いち担当者が、無料あるいは安価なパーソナルプランで使い始める段階。プロダクトの基本的な価値を「発見」し、個人の業務の中で「習慣化」してもらうことが目的となる。
2. チーム導入(Team)
価値を実感した担当者が同僚や上司に共有し、チームでの利用が始まる段階。コラボレーション機能などの解放により、チームとしての生産性向上を体験してもらう。数名での利用に最適化された価格プランが求められる。
3. 全社導入(Enterprise)
チームでの成功体験の伝播によって経営層がその価値を認め、全社的な導入へと至る段階。単なる機能提供だけでなく、セキュリティ、管理機能、手厚いサポートといった組織としての「信頼」が価値の中心となり、価格もその包括的な価値を反映したものになる。
デザインツールの「Figma(フィグマ)」が採用する無料、業務向け、組織向けの3段階に分かれた料金プランは、個人利用からチーム導入、全社導入という一連のジャーニーをスムーズに後押しする好例です。
日本企業が直面する課題
曖昧な収益モデルの罠
プロダクト視点で価格設計の重要性を説いてきましたが、多くの日本企業が、なぜこの変革に踏み出せないのでしょうか。その背景には、根深い構造的な課題が存在します。
ある架空の中堅製造業「A社」の失敗から考えてみましょう。
A社は、自社工場で培ったノウハウを活かし、生産ラインの稼働状況を可視化するSaaSプロダクトを開発しました。プロダクトの性能は素晴らしく、導入すれば無駄なダウンタイムを削減できる画期的なものでした。
問題は価格でした。経営陣が導入実績を作ることを最優先として号令をかけたため、営業部門は、初年度無償、2年目以降で有償に切り替えるプランを提案。結局「初年度無料キャンペーン」で大々的に展開することになりました。







