これは、不安定な状況を無視するということではありません。状況を認識しながらも、ただ耐えるでもなく、逃げるでもなく、知らない間に自分のものにしていく力です。
現代の若者は、検索すればすぐに答えが出る、SNSですぐに返事が来るという環境に慣れすぎており、こうした能力を養うチャンスが激減しているのは、気の毒なことかもしれません。
昔の若者は、ラブレターを出して、一週間返事を待たなければならないといった、「ネガティブ・ケイパビリティの嵐」に絶え間なくさらされることで、その力を鍛錬する機会が存分にあったわけですから(笑)。
池谷裕二いけがや・ゆうじ/1970年静岡県生まれ。薬学博士。東京大学薬学部教授。脳研究者。専門分野は大脳生理学。神経の可塑性を研究することで、脳の健康や老化について探求。2018年よりERATO脳AI融合プロジェクト代表として、AIチップの脳移植によって新たな知能の開拓を目指している。日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞他、受賞多数。2024年の『夢を叶えるために脳はある』で第二十三回小林秀雄賞を受賞するなど著書多数。近著に『生成AIと脳』など。写真は教授室の入り口に掲げられた「知好楽」。
現代なら、携帯をしばらく見ないとか、ネットを遮断する時間をつくるなどで、意識的にこうした能力を育てる必要があるかもしれません。
学生の才能を見極めるために
ガクチカよりも重視されるもの
――近年、企業の学生へのアプローチや対応も変わってきていますか。
私が見ている限りにおいて、企業の採用担当者は最近では「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」よりも「ガクハマ(学生時代に何に『ハマって』いたか)」を重視する傾向にあります。
これは採用における非常に重要なパラダイムシフトではないかと思うのです。
ガクチカは既に完全にマニュアル化されており、生成AIの普及もあって、学生たちは完璧な回答を準備できるようになっています。
皆が同じような模範回答をするので、面接も画一的でつまらないものになる。企業側もこの状況に飽き飽きしている。
一方、何に「ハマって」いるかという質問ならば、ひとりひとり答えは違ってきますし、その人が何かを楽しむ才能を持っているかを見極めることができます。







