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歴史的に見ても長期戦と化しているロシア・ウクライナ戦争。2026年は停戦に向かうことができるのか。特集『総予測2026』の本稿では、とりわけ欧州主導による停戦はあり得るのか。その実現のための条件や環境整備について考察する。(防衛大学校教授 広瀬佳一)
ロシア・ウクライナ戦争は
第2次大戦に次ぐ長期戦に
ロシア・ウクライナ戦争は2026年2月に5年目に突入する。これは第1次世界大戦より長く、約6年余りにわたった第2次大戦に次ぐ長い戦争となっている。
しかし全ての戦争に分水嶺があったように、25年は、停戦を巡る外交が強く意識された年となった。そこでまず、欧州、ウクライナ、米国、ロシアそれぞれの、停戦に向けての理念、領土、安全の保証についての立場を整理してみたい。
欧州の支援の理念は、国際法に基づくウクライナの主権尊重と自由と民主主義の擁護に尽きる。このため、「プーチンは戦争犯罪人であり国際法廷で裁かれるべき」(カラス欧州連合〈EU〉外務・安全保障政策上級代表)で、領土についてはウクライナの頭越しでの交渉を否定し、停戦後の安全の保証については、欧州の有志国連合部隊により確保するとしている。
ウクライナのゼレンスキー大統領も、その理念は欧州と同じで国際法による正義の実現であり、自国を欧州の自由と民主主義を守る戦士と考えている。領土については、1991年の独立時の国境回復が原則であるが、トランプ米政権誕生を念頭に24年末より、安全の保証が得られれば現状の接触線を停戦ラインとする立場へと変化した。その安全の保証については、当初は北大西洋条約機構(NATO)加盟を求めていたが、これも米参加の欧州有志国連合受け入れへと変化した。
これに対してトランプ政権の基本理念は、ディール(取引)を重視する権力政治であり、領土については現状の接触線を軸にロシア、ウクライナ双方の妥協を必要とする。また安全の保証は、欧州主導でなされるべきとして、米軍の直接関与を否定している。
一方、非ナチ化、非軍事化を掲げて軍事侵攻をしたロシアのプーチン大統領は、領土については東南部4州全域とクリミア半島の併合との立場であったのを、8月の米アンカレジでの米ロ首脳会談以降、東部のルハンスク州、ドネツク州の全域を併合する代わりに、南部のザポリージャ州とヘルソン州については、現在の接触線での停戦を認めるとの立場に変化した。安全の保証については、ロシアが参加する形での停戦監視を求めており、ウクライナのNATO加盟は一貫して認めず、中立を要求している。
米国とロシアは権力政治的認識を共有しており、相互に隔たりこそあれ妥協は可能で、停戦交渉は米ロ間で進みかねない。それに対し、欧州はどのように影響力を行使できるか。次ページでは、欧州主導の停戦は実現しうるのかを検証していく。







