「新米が出回れば問題は解決する」「コメは足りているけれど投機筋が買い占めている」「備蓄米を放出すれば価格は落ち着く」――会見で自信マンマンに述べたことを数日後には訂正や釈明に追い込まれ、あげくの果てに「コメは買ったことがない、売るほどある」などと言い出して事実上の更迭。小泉進次郎氏が急遽リリーフしたのも記憶に新しいだろう。

 もちろん、鈴木氏はただの農水族ではない。東大から農水官僚というピカピカのエリート。そんな「コメ行政のプロ」が言うならば信用できる、という方もいらっしゃるだろう。

 しかし、いくら経歴が素晴らしくても、言っていることには「本当に国民の方を向いてます?」と疑ってしまうようなものもある。

 その代表が「減反復活」だ。鈴木大臣が就任直後、石破政権が長年の悲願としてこぎつけた「コメの増産」をちゃぶ台返しにして生産調整を宣言した。それだけでもかなり衝撃だが、コメ行政を見てきた人々が違和感を覚えたのは、このタイミングで「おこめ券」で物価対策という話が飛び出したことだ。

 当たり前の話だが、価格が高騰しているのは米だけではない。みんながみんな米ばかりをバカバカ食べる時代ではないので、いろいろなものに使える商品券などの方がありがたい。実際、今回の政府のおこめ券配布はスルーして、プレミアム商品券を配布している自治体もある。

 にもかかわらず、いきなり「おこめ券」を言い出したことで、多くの国民の頭に「?マーク」が浮かび、さまざまな憶測が飛んだ。例えば、元農水官僚であるキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は、この2つの政策を典型的な「マッチポンプ」として痛烈に批判した。

「3500億円の減反補助金というマッチでコメの値段を吊り上げ、4500億円かかるコメ券というポンプで所得の低い人が払うコメの代金を2000円にしようというのだ」(プレジデントオンライン 11月4日)

 今年産のコメは昨年産よりも10%、69万トン増産されている。となれば、経済原理に基づけば価格は下がるはずだ。しかし、そうなっていないのはJA全農側がこの前放出した備蓄米59万トンを買い戻したもらうことを前提に概算金(JA農協が農家に支払う仮払金)を下げず、むしろ上げているからだ、と山下氏は分析している。