「プロアクティブ行動」を“業績”につなげるために…

 下野さんたち(日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門)は、人材をプロアクティブ化するための因果モデルと具体的な手法を考案して、現在、先進的な企業を中心に、「プロアクティブ行動」を高めるための施策を行(おこな)っている。

下野 私たちは、プロアクティブ行動を高めるための因果モデルを基点として、「プロアクティブ行動が企業(組織)の業績にどのようにつながるか」や「どのような要因がプロアクティブ行動を高めるか」の可視化をパートナー企業に勧めています。その際に重要となる取り組みの観点を3つ紹介します。

 ひとつめが、医療の分野で使われている「エビデンスベースド・アプローチ」と「ナラティブベースド・アプローチ」という観点です。患者の症状や臨床データに基づいて処方する薬を決めるのが「エビデンスベースド」、診察で患者と会話しながら処方を決めるのが「ナラティブベースド」――部下のプロアクティブ行動の発揮度合いを、具体的なデータに基づいて現場管理職(課長など)にフィードバックすることは大切です。そのような「エビデンスベースド」のやり取りができていない会社は、まずはデータでの客観的な現状把握を進める必要があります。ただ、「あなたのチームメンバーのエンゲージメントスコアは前回よりも下がっています。その項目は、○○です」といったレポートを渡すだけで、他に何のフォローもない状態では、現場の管理職が困ってしまいます。必要なのは、得られたデータを自社、自部署に落とし込んだときにどのような施策が有効であるかという自社ならではストーリー(物語)です。この自社ならではのストーリーが現場の管理職にとって腹落ちするものでなければ、現場での取り組みは進まず、せっかくのデータも日々の忙しさの中で埋没し、忘れられていきます。ですから、私たちは、数字と物語(ナラティブ)の両方を統合してフィードバックすることで、現場の管理職層が納得感を持って施策に取り組めるようにしています。

 ふたつめが、「個人とチーム」の視点の融合です。「チームメンバーのモチベーションアップのために□□の施策を行(おこな)いますから、管理職の人たちは頑張ってください!」では、現場管理職(課長など)は腑に落ちません。一方、「皆さんは、チームのために協力し合いましょう!」だけでも、チームメンバーは現場管理職(課長など)に従いません。個人とチームの両者にとってWIN-WINになるために何をするべきかという視点で施策を行(おこな)うことが必要です。

下野 みっつめが、人事制度との一体的運用・併用です。一般的に、「ピープルアナリティクス」による人事データ分析と、評価や処遇といった人事制度の「マネジメントサイクル」は切り離されているケースが少なくありません。部下のエンゲージメントスコアが高かろうが低かろうが、現場管理職の処遇に関係のない企業が多いのです。

 そうした状況で、「メンバーのエンゲージメントを高めてください!」と言っても、日々の業務に忙しい現場管理職(課長など)は対応しようという気になりません。結果、「ピープルアナリティクス」が職場での実効性を失っていくことが、人的資本経営への取り組みが始まって以来、ここ数年の間に起こっています。「ピープルアナリティクス」を担当する人事部門は、人事制度を通しての発言力はありますが、職場の具体的な課題を拾えていないことが多いので、たとえば、賃上げといった施策しか行(おこな)えず、社員との分断が起こりがちです。そのような分断をなくすためには、管理職のマインドセットが重要で、私たちは、管理職のマインドセットの重要性に関する調査結果を学会で発表しました。