止めどないコストアップの現実
F:止めどないコストアップ、なるほど。当初の予定はいくらくらいだったのですか。500万円くらいでしょうか。
山:いや。もっと下ですね。コストは本当に上がっている。そして経験上、いったん上がってしまったコストは決して戻らない。昔みたいな価格に戻ることはもうありません。
F:でも半導体は下がりますよね。同じ性能であれば、3~4年もすればイールドが上がって簡単に半額程度までコストが下がる。使用する量がどんどん増えているから、アッセンブリーにすると高くなるのでしょうが、半導体単体で見れば、すごい勢いで下がるはずです。
山:そういえばフェルさんのご専門は半導体でしたね。確かに半導体のチップ単体で見れば値下がりしているのかもしれません。でもそれは、我々の“手の内”にありませんよね。だってホンダでつくっていないんですから。買ってくるしかないんです。
F:それはそうですよね。
投機対象になるクルマもあるが……
山:価格といえば、シビックTYPE-Rのように、投機対象になってしまうような妙な現象も起きていますね。
F:出たばかりの量産車の中古車相場が新車価格を上回ってしまうのですから、これはもう異常事態としか言いようがない。いかがですか?ご自身の造ったクルマが投機対象になるというのはどんなお気持ちですか。正直ちょっとうれしくないですか。してやったり、というか。
山:いえいえ。全くうれしくない。純粋にクルマとしての価値が認められたと、このクルマなら倍の値段を出してでも欲しいと、その方が本当にそう思って買ってくださるのならそれはうれしく思いますが、いま起きている現象はそうじゃないでしょう。定価で買えた人が少し寝かせて、値上がりしたら転売して儲けちゃおうと、そう思っているからやるわけでしょう。
よく分からない山奥のヤードにTYPE-Rがドカドカ並んでいるとか、そんな話を聞くと、やっぱり悲しくなるんですよね。本当に乗りたい人がいるのに、本当に走りたい人が待っているのに、その人たちの手には届かず、変なところでエンジンも回さないでじっと寝かされているとか。なんでこんな事になるんだって、とても残念に思いますよね。
プレリュードLPLの山上さん Photo by A.T.
F:転売ヤーからすれば、クルマも任天堂のゲーム機もポケモンカードも同じことですものね。うまいこと高値で売り抜けられれば“商材”は何でも良い、と。
山:そうなんです。錬金です。クルマを使った錬金術。ようやくそれも落ち着きつつあるようですが。
F:フェラーリの新車バブルなんかは怪しくなりましたものね。特にハイブリッドが。







