● 不祥事対応は損失ではなく、顧客との関係を守る“投資”と考えられるか

 一般的な不祥事対応では、謝罪広告や返金対応、業務停止などのコストは「損失」と捉えられがちです。しかし、実際に大きく損なわれるのは、これらの費用よりも、顧客が離れてしまうことで失われる「長期的な収益=LTV(顧客生涯価値)」です。

 LTVとは、顧客が初めて商品・サービスを利用してから離脱するまでの間に、企業にもたらす累積利益を示す概念です。上図の語学教室の事例のように、個々の取引額は小さく見えても、継続利用や更新を重ねることで、顧客との関係は長期的な価値へと育っていきます。

 不祥事によってこの関係が断たれることこそが、企業にとって最も大きな損失になります。ジャパネットたかたは、2004年に顧客情報流出が発覚すると、広告・販売を48日間停止し、150億円規模の機会損失を受け入れる決断をしました。

 この判断は、一次的な感情論に翻弄されて情に訴えたのではなく、顧客が離れない状態をつくるための“最も効果的な手段”として行われました。

● 「売り上げを取らないこと」で価値を生むことができるか

 経済用語に「機会費用」という言葉があります。「ある選択をしたために、放棄せざるを得なかった利益」のことです。不祥事対応において、多くの企業がこの計算を見誤ります。

 経営トップが謝罪会見を開く裏で、現場が短期的な売り上げ維持に奔走する――。こうした「言行不一致」な対応をした場合に企業が得るのはわずかな日銭ですが、その代償として支払う「機会費用」は甚大になる可能性があるのです。

 それは、「本当に反省しているという真意を顧客に信じてもらう、二度とないチャンス」を永久に失うことになるからです。

 消費者は、企業の言葉ではなく行動を見ています。ジャパネットたかたが当時、全ての番組を自粛したことは、「売り上げ」という選択肢を完全に捨て、「信頼回復」という一点にリソースを集中させる強烈なメッセージとなりました。

 自ら身を切り、商品を提供しない期間を作ることは、単なる損失ではありません。消費者に「あの会社の商品がまた欲しい」という再開への期待(飢餓感)を醸成し、信頼という無形資産を最大化するための、極めて合理的な選択だったのです。