人間は、脳あってこその存在。人の行動、思考、感情、性格にみられる違いの数々は、すべて脳が決めているのです。「心の個性」それはすなわち「脳の個性」。私たちが日常で何気なく行なっていることはもちろん、「なぜだろう?」と思っている行動の中にも「脳」が大きく絡んでいることがあります。「脳」を知ることは、あなたの中にある「なぜ?」を知ることにもなるのです。この連載では、脳のトリビアともいえる意外な脳の姿を紹介していきます。

ワーグナーの音楽で
国民を陶酔させたヒトラー

 クラシック音楽が好きな人は、それを聴くと心安らぎます。ディスコ音楽を好む人は、強烈なリズムに酔っていますが、それらの音楽は、聴覚野に快い刺激を与えてくれるからなのです。

 しかし、音楽の効果はそれだけではありません。

 たとえば、ワーグナーです。ワーグナーの音楽では、単調で力強いリズムが繰り返されます。それが聴く人の心を元気にするとともに、徐々に興奮の渦に巻き込まれていくような気分にさせます。彼の音楽には、興奮と陶酔をもたらす効果があるといわれています。

 そのため、ドイツのヒトラーはワーグナーの音楽を好み、そのリズムで国民を興奮させ、みずからの思想に取り込んでいったとされています。

 もちろん、ワーグナーが悪いというわけではありません。その曲の特性を知り尽くし、利用したヒトラーが巧みで計算高かったということなのです。

効果が期待される
音楽療法

 ワーグナーとヒトラーの関係とは逆に、音楽がさまざまな医療に貢献している事実もあります。

 大地震や事故で精神的な障害(PTSDなど)を受けた場合、たいていは言葉でカウンセリングを受けることになります。そのとき、カウンセラーが、障害を受けた人の話を聞きながら、傷を癒そうとします。