現在、ニューヨークに出張で来ている。市内のホテルの稼働率は一時期に比べ落ちたようだが、それでもドル安ユーロ高を背景に欧州からの観光客は高水準にある。

 この街は国際観光都市なので、他の都市と異なって景気の悪化が顕著には見えにくい。ニューヨーク連銀が今月発表したニューヨーク市の2月の景気一致指数は前年比+4.2%と一本調子の伸びを示していた(ただし、ニューヨーク州全体になると+1.9%、隣のニュージャージー州は横ばい)。

 とはいえ、ウォール街ではリストラが始まっており、さすがのニューヨークでも先行きはある程度のスローダウンが見えてくるだろう。すでにニューヨーク市内の高級百貨店は苦戦している。欧州からの観光客の売り上げが下支えしているものの、それを除くと、かなり厳しい状況のようだ。

 それに対して、郊外にあるウォルマートの店舗はこのところ活況を呈している。高中所得者層が、節約のためディスカウントストアに行くようになったからだ。リセッション時によく見られるパターンである。また、同社は現在、テレビコマーシャルなどで「Save more, Live better(もっと節約して、よい暮らしを)」というキャンペーンを大規模に展開している。それが、今の消費者心理にうまくヒットしたらしい。

 一方、金融市場では、FRBが3月にベア・スターンズを救済して以来悲観論が弱まっている。「絶対にデフォルトは発生させない」というFRBの強い意志は、モラルハザード問題と紙一重ではあるが、市場に安心感を与えた。しかも、さらにFRBは新手法による流動性対策を検討しているという(「ウォールストリート・ジャーナル」4月9日)。

 ベア・スターンズのような資金繰り破綻は当面起きないという見方が市場では主流だ。投資銀行の収益悪化も底が見えてきたという評価が多い。

 ただし、機関投資家など損失評価が進んでいない業態もある。また、雇用、消費など実態経済の悪化が進むと、これまでは損失が軽微だった地方金融機関の資産が傷み始める恐れもある。

 5月から始まる減税小切手の還付で一時的には成長率が持ち上がる可能性があるが、米国経済の先行きを楽観するにはいまだ材料不足の状態が続いていると思われる。

 FRBの流動性対策が時間稼ぎをしている間に、議会で金融システム対策の議論が進めばよいのだが、議員の危機感は3月前半よりやや弱まっているように思われる。FRBの流動性対策が効き過ぎて、市場だけでなく議員をもほっとさせてしまったのかもしれない。

(東短リサーチ取締役 加藤出)