金融インサイド#29Photo by Yoshihisa Wada

英住宅金融会社マーケット・フィナンシャル・ソリューションズ(MFS)の破綻をきっかけに、プライベートクレジットを巡る懸念が広がっている。2008年のリーマンショックになぞらえる議論も浮上し、米国では金融危機につながるリスクも指摘される。長期連載『金融インサイド』の本稿では、4月1日付で全国銀行協会会長に就任した加藤勝彦・みずほ銀行頭取に、金融システムの安定に影響し得るリスク要因やプライベートクレジット問題への認識、新決済システムへの移行予定、銀証ファイアウォール規制の緩和についての対応方針を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

懸念が広がるプライベートクレジット問題
日本への影響を含む加藤新会長の認識は?

――加藤会長は2026年の日本経済の見通しとして、実質賃金がプラスに転じるなど前向きな見方を示しています。3年ぶりに全国銀行協会会長に就任した今、金融界はどのような役割を担っていきますか。

 大きな方向性としては、日本経済の潜在力を解放するため、変革への挑戦を力強く後押ししていきたいです。

 3年前は、日本がいよいよ金利のある世界に入っていくという局面でした。その後の3年間で実際にさまざまな変化が起こり、さらに大きな転換期に入ってきたと感じています。総じて言えば、経済が順回転し始める世界になりました。

 その中で何が変わったのか。

 まず、日本経済はかなり力強さを取り戻してきているというのがわれわれの実感です。売上高に対する経常利益率は8%を上回り、M&A件数も5000件を超えている。企業の投資マインドも大きく高まっています。資産運用立国への取り組みを進めてきたこともあり、家計資産に占める預貯金の比率は5割を切りました。

 このように日本経済に力強さが戻りつつある一方で、グローバルにおける日本の地位は低下しています。失われた30年をなお引きずっているからです。

 今こそ国を挙げて、日本経済を成長軌道に乗せていかなければいけない。金融もその一翼を担う1年にしたいです。

――3年前は金利のある世界にこれから入っていく段階でしたが、今は国内の長期金利が上昇し、株価も大きく伸びています。金融環境や地政学的要因が激変する中で、金融システムの安定を脅かすリスク要因をどう見ていますか。

 金利のある世界が定着する中でも、日本の金融システムは総じて高い安定性を維持してきました。さまざまな外部環境の変化に順応してきたということです。

 ただし金利のある世界が定着してきたとはいえ、今後さらに上昇する余地があります。預金収支がプラスに転じてきたことは安定性に寄与しますが、銀行が保有する債券の含み損拡大や、企業側の資金繰り悪化といったリスクは引き続き残っています。

 株価も大きく上がりましたが、特に米国ではAI関連銘柄が相場を押し上げている面もあります。何らかの理由でAIへの期待が剥落した場合には、急激な調整が起こる可能性も否定できません。

 地政学リスクも大きいです。長期化すればオイルショック的な経済不況も想定されるので、この点も非常に懸念しています。

――他に金融システムの安定を脅かすリスク要因として考えられるのは、リーマンショックになぞらえる議論も浮上しているプライベートクレジットの問題です。このリスクをどう見ていますか。

全銀協会長に就任した加藤勝彦・みずほ銀行頭取は、プライベートクレジットに関連する問題について「まだ底を打っていない」との認識を示した。次ページでは、危機発生時の日本経済への影響に加え、前回会長時に障害が起きた全銀システムの課題と新システム移行の見通し、さらに米金融当局の資本規制の見直しにより大手行で必要な自己資本が4.8%減る見込みを踏まえ、邦銀に不利になる可能性や全銀協の対応方針を聞いた。